税理士を変えると税務調査が来る、は本当か|変更が引き金にならない理由と、変えた1年目に本当に起きること

「税理士を変えると税務署に目をつけられる、って聞いたんですが」

税理士の変更を迷っている社長から、この質問はよく出ます。同業の社長から聞いた、今の税理士に言われた、ネットで見た。出どころはいろいろですが、内容は同じで「変えると調査が来る」です。

先に答えを書くと、税理士を変えたことが理由で調査が来ることはありません。ただ、変えた1年目に「調査が来たように感じること」は起きます。その中身を知っておけば、変えるかどうかの判断から、この話を外せます。

税務署は、税理士が変わったことを調査の理由にしない

税務署が調査先を選ぶとき、見ているのは申告書の中身です。売上の伸び、利益率の変化、同業と比べた経費の割合、過去の調査での指摘、取引先の調査から出てきた情報。こうした材料で「この会社は見る必要がある」と判断して、調査先を決めます。

申告書には税理士の名前と押印の欄があり、税理士が変われば税務署はそれを知ります。ただ、それは「誰が作ったか」の情報であって、「この会社を調べる理由」ではありません。税理士は毎年何件も顧問先が入れ替わるものですし、税理士の高齢化で事務所をたたむケースも増えています。税理士が変わった会社を全部調べる、という運用は、物理的にも成り立ちません。

合わせてよく聞かれるのが「変更の届出を税務署に出すのか」です。会社の側で出す届出はありません。新しい税理士が申告書を出すときに、代理する権限があることを示す書類を一緒に出すだけで、それで税務署の側の記録が切り替わります。「届出を出した時点で目をつけられる」という手続きは、そもそも存在しません。

私はこの仕事を長くやっていますが、「税理士が変わったので調査に来ました」と言われたことは一度もありませんし、調査官がそう考えているという話も聞いたことがありません。

この話が広まっている理由

それでもこの話が消えないのは、二つの理由があると思っています。

一つは、たまたまの重なりです。税理士を変えた翌年に調査が来た会社は、一定数あります。調査は数年に一度は来るものなので、変えた翌年に当たることもある。その会社の社長が「変えたら来た」と周りに話せば、話は広まります。変えなかった年に来た会社の話は「変えなかったら来た」とは言われないので、記憶に残りません。

もう一つは、今の税理士がそう言う場合です。顧問先を失いたくない側が「変えると調査が来ますよ」と言えば、社長は変えるのをためらいます。これは引き止めの言葉であって、事実の説明ではありません。この言葉を使う税理士がいるのは残念ですが、聞いた側は、言った人の立場を考えて受け取ってください。

変えた1年目に本当に起きること|前期の処理が見直される

変えた1年目に起きるのは、調査ではなく、新しい税理士による前期までの処理の確認です。新しい税理士は、引き継いだ決算書と申告書と帳簿を、最初に一通り見ます。見ないと今期の処理が始められないからです。

このときに、前の税理士の処理で引っかかるものが出てくることがあります。役員貸付金が膨らんでいる、在庫の数字に根拠がない、修繕費で落としている工事が資本的支出に見える、家族への給与の実態が分からない、外注費の中に給与と見るべきものがある。こうした点を、新しい税理士は社長に聞きます。

社長から見ると、これまで何も言われなかったことを急に聞かれるので、「調査みたいだ」と感じます。実際、聞かれる内容は調査官が見る点と同じです。だから「変えたら調査が来た」という感覚になる。ただ、聞いているのは税務署ではなく、自分の側の税理士です。この違いは、次の節のとおり、金額に直結します。

自分で直すのと、調査で直されるのは、金額が違う

新しい税理士が前期の処理の誤りを見つけた場合、やることは二つに分かれます。今期から正しい処理に変えるか、前期の申告を自分から直すかです。

自分から直す場合、本来の税金との差額と延滞税は払いますが、加算税はつきません。調査で指摘されてから直すと、同じ差額に過少申告加算税が乗り、内容によっては重加算税になります。たとえば300万円の経費が否認される内容なら、追加の税金は75万〜100万円で同じでも、自分で直せば加算税ゼロ、調査で指摘されれば8万〜10万円、意図的と見られれば30万円前後が上乗せされます。

つまり、新しい税理士が1年目に前期の処理を見直すことは、調査で見つかる前に自分で見つけて、加算税なしで直す機会です。「変えたら調査みたいなことをされた」のではなく、「変えたから調査の前に直せた」が実態です。前の税理士のもとで何年も見過ごされていたものを、調査官が先に見つけるか、自分の税理士が先に見つけるか。どちらが安く済むかは明らかです。

見直しで何が出てくるかは、会社によって違います。よく出るものは、社長への貸付金、期末在庫、修繕費と資本的支出、家族への給与の四つで、それぞれ別の記事に書いています。

本当に調査を呼ぶもの

税理士の変更ではなく、本当に調査の選定に効くものを挙げておきます。

・売上が急に伸びた、または急に落ちた。前年比で3割以上動くと目立ちます

・利益率が同業と比べて低い。売上は大きいのに利益がほとんど出ていない状態が何年も続く

・特定の経費が急に増えた。外注費、交際費、修繕費が前年の倍になっている

・前回の調査で指摘があり、同じ処理を続けている

・取引先の調査で、支払先として名前が出た

・そもそも申告していない

どれも申告書の中身か、会社の外から入る情報です。税理士が誰かは入っていません。調査が来やすい会社の特徴は税務調査が来やすい会社の記事に詳しく書いています。

変えないことのほうが、調査では不利になる

「変えると調査が来る」を信じて今の税理士に留まる判断は、逆の結果を招くことがあります。今の税理士に不満があって変更を考えている、ということは、期中の確認や決算書の説明が足りていない可能性が高い。そういう状態で作られた申告書は、調査で指摘される点を抱えたまま毎年出されています。

調査はいつか来ます。そのときに、指摘される点を何年分も積み上げた状態で迎えるか、変えた1年目に見直して直した状態で迎えるか。調査での結果は、税理士を変えたかどうかではなく、申告書の中身で決まります。中身を整える機会を先に延ばすことのほうが、調査では不利です。

変えるなら決算後のどの時期がよいかは税理士を変えるタイミングの記事に、今の税理士への伝え方は税理士の断り方の記事に、引き継ぎで受け取る資料は税理士変更の引き継ぎ資料の記事に書いています。「調査が来る」という話は、判断の材料から外して構いません。

変えた1年目に、前期までの処理を一緒に見直します

引き継いだ決算書と帳簿を最初に確認し、調査で指摘されそうな点があれば、自分から直すか今期から変えるかを一緒に決めます。前の税理士とのやり取りと資料の受け取りは当事務所が行います。

税理士の変更をご検討の方へ/料金のご案内

電話:027-386-2807(平日9:00〜18:00)

住所:群馬県高崎市江木町610-10 ミノラスビル3階

ミノラス会計事務所 公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太