「決算書に役員貸付金という科目があって、気づいたら900万円になっていた。借りた覚えはないんですが」
社長が会社から借りた覚えがないのに、決算書に貸付金が載っている。これは珍しいことではなく、中小企業の決算書でかなりの割合で見るものです。借りたのではなく、会社のお金が社長の側に流れた分の「行き先が説明できないもの」を、税理士が貸付金という科目で受けているだけです。
放っておくと、税務調査と銀行の両方で問題になり、最後は相続まで残ります。何が起きているのか、どう減らすのかを書きます。
この記事の内容
貸付金は「説明できない出金」の置き場所
役員貸付金が増える経路は、だいたい三つです。
・会社のカードや口座から、社長個人の支出を払った。家族の食事、私物、自宅の光熱費など
・役員報酬として帳簿に載せた額より、実際に社長の口座へ振り込んだ額が多い
・会社の口座から現金を引き出して、何に使ったか分からない
どれも、会社から見れば「お金が出ていったが経費ではない」状態です。経費にできないので、税理士は社長への貸付として処理します。社長が借りたつもりがなくても、帳簿の上では借りたことになり、毎期少しずつ積み上がります。年に100万円ずつ増えれば、9年で900万円です。
社長の側に「借りた」という意識がないのは、この経路のどれにも「借入」という場面がないからです。その月の生活費が少し足りなくて会社のカードを使った、の積み重ねが貸付金になっています。
税務調査が見る2つのこと
調査官が役員貸付金を見るとき、見るのは二つです。
一つ目は、利息を取っているかです。会社が社長にお金を貸しているなら、会社は利息を受け取るべきだ、という考え方で、利息を取っていなければ、取ったものとして会社の収入に加えて税金を計算します。利率は税務署の定める水準で、金額としては貸付金900万円なら年に10万円に満たない程度です。これ自体の税金は小さいのですが、調査で必ず指摘される項目なので、指摘事項の一つ目として残ります。
二つ目のほうが重く、貸付金が本当に貸付金なのか、です。返す約束がない、返済が一度もない、使い道が社長の生活費だった。こうなると、調査官は「これは貸付ではなく、社長への給与ではないか」と見ます。給与と認定されると、期の途中で増えた役員報酬の扱いになり、会社の損金にはならず、社長個人には所得税がかかり、会社は源泉所得税を納めていなかったことになります。期中に変動した役員報酬がどう扱われるかは役員報酬を期の途中で上げたら、税務調査で否認されるの記事に書いています。
給与と見られるかどうかの分かれ目は、貸付の形が整っているかです。金銭消費貸借契約書があり、返済の予定が決まっていて、実際に毎月いくらかでも返している。この三つがあれば貸付金として通ります。三つとも無いと、調査では弱いです。
銀行は貸付金を資産と見ない
決算書の上では、役員貸付金は会社の資産です。ただ、銀行は資産として評価しません。社長からの回収は見込めない、という前提で、貸付金の額を資産から引いて会社の実力を見ます。純資産が1,000万円で役員貸付金が900万円なら、銀行の見方では純資産はほぼゼロです。
もう一つ、銀行が気にするのは「貸したお金が社長個人に流れていないか」です。運転資金として融資したお金が、会社を経由して社長の口座に行っていれば、融資の目的と違う使われ方をしたことになります。役員貸付金が増え続けている決算書は、銀行の担当者にそう見えます。融資の審査で貸付金の中身を聞かれるのは、このためです。
群馬銀行でも東和銀行でも、しののめ信用金庫でも、役員貸付金が大きい決算書には「これはどういうお金ですか」という質問がつきます。説明できる答えを用意しておくより、残高そのものを減らすほうが早いです。
相続のときに、社長の借金として残る
役員貸付金は、会社から見れば社長への債権、社長から見れば会社への借金です。社長が亡くなると、この借金は相続人が引き継ぎます。会社の株も相続人が引き継ぐので、自分の会社に自分が借金をしている、という形で残ります。
相続税の計算では、会社の株の評価に貸付金が資産として含まれ、同時に社長の債務として控除もされるので、単純に損というわけではありません。ただ、貸付金の相手が社長の場合、会社側の債権の評価と社長側の債務の控除がきれいに相殺されないことがあり、相続の場面で税理士が頭を使う項目になります。生前に減らしておけば、その手間ごとなくなります。相続側の論点はたかぷら(たかさき相続税・贈与税相談プラザ)で扱っています。
減らす方法は4つ、増やさない方法は1つ
すでにある貸付金を減らす方法は、四つです。
・社長が個人のお金で返す。一番単純で、できるならこれが最善
・役員報酬を上げて、増えた分で返す。期首に報酬を決めるときに、返済分を上乗せしておく。社長の所得税と社会保険料は増えます
・社長が個人で持っている資産を会社に売って、代金と相殺する。社長名義で事業に使っている車や不動産があれば使えます
・会社が債権を放棄する。社長側では放棄された額が給与になるので、所得税がかかります。最後の手段です
900万円を一度に消すことは難しいので、役員報酬の上乗せで年に100万〜200万円ずつ返す形が、実務では多いです。5〜9年かかりますが、返済している実績が毎月できるので、調査で給与と見られる心配も同時に消えます。
増やさない方法は一つしかありません。会社のお金で個人の支出を払わないことです。会社のカードは会社の支出にだけ使い、個人のものは個人のカードで払う。報酬の振込額は帳簿の額と合わせる。現金の引き出しは使い道を記録する。当たり前のことですが、これが崩れている会社では貸付金は増え続けます。
顧問税理士が止める場面
役員貸付金が900万円になるまで、顧問税理士は毎期の決算で残高を見ています。毎期100万円ずつ増える貸付金を、9年間、科目に振り替えるだけで何も言わなかった、ということです。
止める場面は、毎月あります。月次の試算表で貸付金が前月より増えていれば、その月に「会社のカードで何を払いましたか」と聞けば済みます。期末に「今期も貸付金が100万円増えています。来期の報酬を上げて返す形にしましょう」と言えば、翌期から減り始めます。決算書を渡すときに貸付金の意味を説明していれば、社長は「借りた覚えがない」とは言いません。決算書の説明がないという状態は決算書の説明がない税理士の記事に書きました。
貸付金が何百万円にもなっている会社は、顧問との会話がどこかで止まっています。税務調査で指摘されてから慌てるより、今期の決算書を開いて、役員貸付金の行がいくらになっているかを見てください。そこから話を始めるのが一番早いです。調査で何を見られるかの全体は税務調査の流れの記事に、変えるなら決算後のどの時期がよいかは税理士を変えるタイミングの記事に書いています。
役員貸付金を、計画を立てて減らしていきます
今の残高と増えている経路を確認して、報酬の組み直しと返済の形を期首に決めます。月次の試算表で増えていないかを見続けるのは、担当者の仕事です。今の税理士からの引き継ぎは当事務所が行います。
電話:027-386-2807(平日9:00〜18:00)
住所:群馬県高崎市江木町610-10 ミノラスビル3階
ミノラス会計事務所 公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太















