税理士を変えるベストタイミング|決算後がいい理由と期中変更のリスク

「今の税理士に不満はあるんですが、期の途中で変えると税務署に何か言われませんか」

高崎市内で自動車整備工場を営む社長から、10月に受けた相談です。3月決算で、そのときは第7期の7か月目でした。決算書の説明を一度も受けたことがなく、質問しても返事は2週間後。もう限界だ、今すぐ変えたい、という状態でした。

先に答えを書くと、税理士を変えたことで税務署から何か言われることはありません。誰に税務代理を頼むかは会社が自由に決めることで、届け出る義務もありません。変更を理由に調査が来た会社も、私は見たことがないです。

問題は税務署ではなく、引き継ぎの実務とお金のほうにあります。同じ「変える」でも、いつ動くかで会社の負担が20万円以上変わることがあります。決算後がなぜ安全なのか、期中に動くと何が起きるのか、それでも待たずに変えるべきケースはどこかを、公認会計士・税理士の長島祐太が書きます。

結論:決算申告が終わった直後がいちばん安全

税理士を変えるタイミングとして最も事故が少ないのは、決算申告が終わってから次の期が始まるまでの間です。3月決算なら5月末が申告期限ですから、6月に切り替えるのが理想形です。実際には申告が終わってから動き出すと遅いので、申告の1〜2か月前に次の事務所を決めておいて、期首から新体制にするのがきれいな形になります。

逆にいちばん揉めやすいのが期の途中、それも決算の3〜4か月前です。その期の申告を誰が責任を持つのかがはっきりしないまま作業が進むので、どちらの側にも中途半端な仕事が残ります。

なぜ決算後がいいのか

前の税理士の責任範囲がきれいに切れる

申告書は1期分が一体のものです。期首から期末までの帳簿を作った人と、申告書に署名して税務代理権限証書を出す人が同じであるほうが、当然ですが筋が通ります。期の途中で交代すると、前半の仕訳を切った事務所と、申告書に名前を載せる事務所が別になります。

後から税務調査で前半の処理を指摘されたとき、新しい税理士は「私が作った帳簿ではない」とは言えません。申告書に署名した以上、全期間について説明を求められます。だから引き継ぐ側は前半の内容を自分の目で確認し直しますし、その作業はそのまま費用として会社に跳ね返ります。

引き継ぎ資料が1期分そろっている

決算直後は引き継ぎに必要な書類がすべて出来上がっています。私が最低限もらうのは次のものです。

・直近3期分の決算書と法人税・消費税の申告書控え

・勘定科目内訳明細書と法人事業概況説明書

・総勘定元帳(できれば会計データそのもの)

・固定資産台帳(取得価額・耐用年数・未償却残高が分かるもの)

・消費税の届出書の控え一式

・繰越欠損金の内訳が分かる別表

本当に困るのが固定資産台帳と繰越欠損金です。決算書の数字だけでは、どの資産がいつまで償却できるのか、欠損金があと何年使えるのかが分かりません。

新しい税理士が期首の1か月目から見られる

期首から関与できれば、その期の利益はまだ12か月分そのまま動かせます。役員報酬の設定も、設備投資の時期も、決算賞与も、手がついていない状態から相談できます。

7か月目からの関与だと、打てる手は残り5か月分に限られます。「変えたのに何も変わらなかった」という感想は、たいていこの時期のズレから来ています。

期中に変えると何が起きるか

会計データが出てこないことがある

最大の落とし穴がこれです。会計ソフトが会社の名義で契約されているクラウド型なら、データはそのまま残ります。ところが事務所のシステムで記帳している場合、データの持ち主は事務所です。紙とPDFの元帳は渡してもらえても、他社のソフトに読み込める形式では出てこないことが珍しくありません。

そうなると、期首から交代月までの仕訳を新しい事務所で入力し直すことになります。月100仕訳の会社で7か月なら700仕訳、顧問料とは別の一時費用です。決算後の交代ならこの費用はゼロで済みます。

消費税の届出は期首の前日で締め切られている

簡易課税制度を選ぶかどうかの届出は、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに出す必要があります。課税事業者を選択する届出も同じです。つまり、その期の消費税をどの方法で計算するかは、期が始まった瞬間に確定しています。

期の途中で変えても、この判断は動かせません。簡易課税にすれば数十万円安かった、と分かるのは新しい税理士が入ってからですが、直せるのは翌期からです。

役員報酬はもう動かせない

定期同額給与として損金に入れられる役員報酬の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内です。期の後半に交代すると、新しい税理士が見たときには改定期限を過ぎています。利益が出そうだから上げる、資金繰りが苦しいから下げる、という調整は翌期まで待つことになります。

前の事務所の顧問料は減らないことが多い

顧問契約書を読み直してください。「解約の申し出は3か月前までに書面で」といった条項が入っていることがよくあります。10月に申し出ても契約が終わるのは1月末、という計算になります。

年間の顧問料に決算料を含めて月割りにしている事務所だと、期の途中でやめても返金は基本的にありません。二重に払う期間が出るくらいなら、その分の顧問料で最後の決算までやってもらったほうが会社の手残りは多くなります。

期中変更をやめて24万円が浮いた整備工場の例

冒頭の自動車整備工場の話に戻ります。売上1億1,000万円、社長のほかに整備士3名と事務のパートが1名という会社です。3月決算で、相談を受けたのが10月でした。

決算書を渡されるだけで説明がない、質問への返事が2週間かかる、試算表は年に1回まとめて出てくる。変更の理由としては十分ですし、私も変えたほうがいいと思いました。問題はいつ変えるかです。

確認したのは2点です。ひとつは会計データの形式で、前の事務所は自社システムで記帳しており、渡せるのは紙とPDFだけという回答でした。4月から10月までの約800仕訳を当方で入力し直す前提になり、見積もりは18万円(税別)です。もうひとつは顧問契約書で、解約は3か月前の書面通知。10月に申し出れば1月末まで、月2万円が3か月で6万円です。

合計24万円を払ったうえに1月末で契約が切れると、2月と3月の帳簿と3月決算の申告が宙に浮きます。前の事務所は解約後の決算は受けないという姿勢でしたから、当方が1年分を引き受けることになり、さらに費用が乗ります。

社長には「腹は立つと思いますが、3月の申告まではあの事務所にやらせてください」と伝え、11月のうちに解約日を3月31日とする通知だけ出してもらいました。3か月前の条件も満たしますし、前の事務所は最後の決算まで責任を持つ形になります。

4月から当事務所に切り替えました。移行費用はかかっていません。クラウド会計に移して4月分から月次を回し、7月には第1四半期の数字を社長と一緒に見ています。決算書の説明を受けたのは、社長にとってその年が初めてでした。

5か月待ったことで、24万円と、宙に浮くはずだった2か月分の帳簿を守れました。不満が限界に来ているときほどこの5か月は長く感じますが、変えると決めた時点でゴールは動きません。あとは損の少ない順路を選ぶだけです。

それでも決算を待たずに変えたほうがいいケース

原則は決算後ですが、待つほうが危ないケースもあります。次のいずれかに当てはまるなら、期中でも動いたほうがいいと考えています。

・そもそも連絡が取れない。電話もメールも返ってこない状態が数か月続いている

・税理士が高齢で、廃業や体調不良の話が出ている

・融資や補助金の申請が動いていて、試算表がすぐに必要なのに出てこない

・申告期限に間に合わなかったことがある、または期限後申告になったことがある

・決算3か月前なのに、その期の着地見込みを誰も把握していない

連絡が取れない状態は特に危険です。申告期限は待ってくれませんし、期限後申告が続けば青色申告の承認取消しにつながる可能性もあります。この場合は費用を払ってでも早く切り替えるべきです。連絡が来ない事務所で何が起きているかは、税理士から連絡が来ない・返事が遅い|放置されている会社に起きることで詳しく書いています。

逆に、待つべきなのが税務調査の通知が来ている場面です。調査の直前や調査中に税理士を変えると、新しい税理士は過去の処理の経緯を知らないまま立ち会うことになります。調査が終わってから、その対応を見て判断するほうが冷静に決められます。調査がどう進むかは税務調査の流れ|通知から当日、結果が出るまでにまとめてあります。

決算後に変えるための逆算スケジュール

3月決算の会社を例に、期首から新体制にする場合の動き方です。

・12月〜1月:新しい税理士の候補と面談する。2〜3事務所を比較する

・1月:依頼先を決める。会計データの形式と引き継ぎ資料を確認してもらう

・1月中:前の事務所に解約を書面で通知する。解約日は3月31日に指定する

・2月〜3月:前の事務所に通常どおり記帳と決算準備を進めてもらう

・4月:新しい事務所と契約。4月分の記帳から新体制に切り替える

・5月:前の事務所が3月期の申告を提出。控え一式と引き継ぎ資料を受け取る

解約の通知は書面で日付を残してください。口頭だけだと「聞いていない」と言われ、契約が自動更新されたと主張される余地が残ります。断り方に悩む方が多いのですが、理由を細かく書く必要はなく、契約を更新しない旨と解約日だけで足ります。

税務署への届出は要りません

会社が税務署に出す「税理士変更届」のようなものはありません。税務代理をする税理士は、申告書を提出するときに税務代理権限証書を添付します。新しい税理士がこれを出すことで、税務署側の窓口が切り替わります。会社側の手続きは、前の事務所との契約解除だけです。

e-Taxの利用者識別番号だけは必ず聞いておく

電子申告を税理士が代理送信していると、法人自身の利用者識別番号と暗証番号を会社が把握していないことがあります。地方税のeLTAXも同じです。分からなくなれば取り直せますが、過去に税務署から届いたメッセージボックスの内容は新しい番号では見られません。引き継ぎ資料をもらうときに、番号と暗証番号を書面で確認しておいてください。

変更を決める前に確認しておくこと

新しい事務所を選ぶ前に、今の契約について次の4点を手元で確かめておくと、話が早く進みます。

・顧問契約書の解約条項(何か月前の通知が必要か、書面が必要か)

・顧問料に決算料が含まれているか、別建てか

・会計ソフトの契約名義が会社か事務所か

・e-Tax・eLTAXの利用者識別番号を会社が持っているか

この4点が分かれば、決算後まで待つべきか、待たずに動くべきかはほぼ判断できます。契約書が見つからない会社も多いのですが、その場合は前の事務所に写しを請求してください。請求すること自体が変更の意思表示になるわけではありません。

私は監査法人で上場会社の監査に携わったあと、高崎で会計事務所を開いています。引き継ぎの相談を受けていて思うのは、変えること自体で悩んでいる会社は少ないということです。不満はもう固まっていて、決めかねているのは順番と費用です。そこは計算で答えが出ます。

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ミノラス会計事務所では、今の契約内容と決算月をうかがったうえで、いつ切り替えるのが損が少ないかを最初にお伝えします。引き継ぎにかかる実費の見積もりも契約前にお出しします。

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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太