今の税理士への断り方|角を立てずに契約を終える手順と文例

「変えたいのは決まっているんです。ただ、どう切り出せばいいのか分からなくて」

税理士を変える相談を受けていて、最後に残るのはたいていここです。料金でも実務でもなく、断り方が分からないから動けない。先代からの付き合いだったり、紹介してくれた人がいたり、狭い地域で顔を合わせる相手だったりすると、なおさらです。

結論から言うと、伝えることは3つだけです。契約を更新しないこと、いつまでにするか、引き継ぎ資料をいただきたいこと。理由を細かく説明する必要はありません。

公認会計士・税理士の長島祐太が、実際に使える文例と、断ったあとに起きがちな揉め事の避け方を書きます。引き継ぐ側として何度も立ち会ってきた立場からの話です。

伝える前に片づけておく2つのこと

切り出す前に、必ず確認しておくものが2つあります。

ひとつは顧問契約書の解約条項です。何か月前の通知が必要か、書面が要るか。3か月前という条項はよく入っています。ここを見ずに口頭で伝えると、自動更新されたと主張される余地が残ります。切り替える時期そのものの考え方は税理士を変えるベストタイミング|決算後がいい理由と期中変更のリスクに書きました。

もうひとつは、未払いの顧問料や決算料がないかです。ここが残っていると、後で書類を返してもらう場面でこじれます。未払いを理由に預かり書類を留め置くと言われるケースが実際にあります。伝える前に精算を済ませておいてください。

伝え方の5つの原則

理由を細かく言わない

不満を並べたくなる気持ちは分かりますが、言っても状況は改善しませんし、相手が反論を始めると話が長引きます。「体制を見直すことにしました」で十分です。契約を終えるのに理由の説明義務はありません。

先に口頭、そのあと書面

いきなり書面だけ送ると、相手の受け取り方が悪くなります。電話か面談で一報を入れて、その場か直後に書面を渡す。順番を守るだけで、後の引き継ぎがずいぶん違います。

書面は「解約通知書」と大げさに構えなくて構いません。契約を更新しない旨と解約日、引き継ぎ資料の依頼が入っていれば足ります。日付が残ることが目的です。

次の税理士の名前は言わない

聞かれることはありますが、答える必要はありません。「まだ決めていません」で問題ないです。同じ地域の事務所だと、その後に余計なやり取りが発生することがあります。引き継ぎは事務所同士ではなく、会社を通してやるのが基本です。

社長が自分で伝える

経理担当や奥様に任せる方がいますが、長い付き合いの相手ほど社長が直接伝えたほうが収まります。任された側が矢面に立つことになり、あとで気まずさが残ります。

引き継ぎ資料は具体的に列挙する

「資料一式をお願いします」だと、決算書だけ返ってくることがあります。書面に何が必要かを書いておいてください。決算書と申告書の控え3期分、勘定科目内訳明細書、総勘定元帳、固定資産台帳、消費税の届出書の控え、それにe-TaxとeLTAXの利用者識別番号。この6つは必ず入れます。

そのまま使える文例

決算後に切り替える場合の、標準的な文面です。宛名と日付を入れれば、このまま使えます。

〇〇税理士事務所
〇〇先生

平素より大変お世話になっております。

このたび社内の管理体制を見直すこととなり、誠に勝手ながら、貴事務所との顧問契約を〇年〇月〇日をもって終了させていただきたく、書面にてご連絡申し上げます。

〇年〇月期の決算申告までは、これまでどおりお願いできればと存じます。申告完了後に、下記の資料をお引き渡しいただけますでしょうか。

・決算書および法人税・消費税申告書の控え(直近3期分)

・勘定科目内訳明細書、法人事業概況説明書

・総勘定元帳

・固定資産台帳

・消費税に関する各種届出書の控え

・e-Tax、eLTAXの利用者識別番号

長きにわたりご支援いただきましたこと、心より御礼申し上げます。最後までどうぞよろしくお願いいたします。

〇〇株式会社 代表取締役 〇〇

紹介者がいる場合は、税理士に伝える前に紹介者へ一報を入れてください。順番が逆になると、紹介者が知らないところで話が進んだ形になります。「先日ご紹介いただいた〇〇先生の件ですが、当社の体制を見直すことになりまして」と、決定事項として簡潔に伝えるのがいいです。相談の形にすると止められます。

連絡が取れない相手の場合は、普通郵便では届いた証拠が残りません。特定記録か、金額の争いがありそうなら内容証明を使ってください。

引き止められたとき

よくあるのが、顧問料を下げるという提案です。月4万円を3万円にします、という話が出ることがあります。

ここで考えてほしいのは、いま抱えている不満が料金のものかどうかです。連絡が来ない、説明がない、訪問がないという不満であれば、料金を下げても何も解決しません。むしろ、下がった分だけ関与が薄くなる可能性があります。

逆に「担当を変えます」「月次で伺います」という提案なら、一度受けてみる価値はあります。実際に体制が変われば、引き継ぎの手間と費用をかけずに済みます。ただし、次の決算までに実行されるかどうかを見てください。口約束だけで半年たっている、という話も聞きます。

断ったあとに起きる揉め事

実際に見てきたもので、頻度が高いのは次の3つです。

ひとつは、預けた書類が返ってこないケース。通帳、請求書、領収書といった会社の書類は会社のものですから、返還を求められます。委任契約が終われば、預かっているものを引き渡すのは受任者の義務です。それでも渡さないと言われたら、書面で期限を切って請求してください。

ふたつめは、会計データを他社のソフトに読める形で出してもらえないケース。これは残念ながら、必ず応じてもらえるとは限りません。事務所のシステムで作成したデータそのものは事務所の側にあるからです。紙とPDFの元帳だけ、という回答は珍しくありません。だから決算後の切り替えが安全だという話になります。

みっつめは、最後の決算をやってもらえないケース。解約の申し出をした途端に「では決算は受けません」と言われることがあります。これを避けるために、解約日を決算申告の完了後に設定して、その旨を書面に明記しておいてください。文例で「決算申告まではこれまでどおりお願いしたい」と入れているのはこのためです。

先代からの付き合いだった和菓子店の例

高崎市内で和菓子の製造小売をしている会社です。店舗が2つ、パートを含めて9名、売上7,000万円ほど。2代目の社長から相談を受けました。

顧問税理士は先代の代からの付き合いで、40年近くになります。所長は78歳。月次はなく、年に一度資料を渡して決算書が返ってくるだけ。社長は3年前から変えたいと思っていましたが、動けずにいました。理由は2つあって、先代である父親が反対していたことと、商工会の集まりで顔を合わせる相手だったことです。

私が伝えたのは、順番を間違えないことだけでした。まず父親に、料金の話ではなく体制の話として伝える。次に税理士本人へ、社長が一人で会いに行く。商工会の関係者には、こちらから説明して回らない。

父親には「借入が2本あって、銀行と話す機会が増えている。毎月数字を見てくれる人が要る」と説明したそうです。料金や不満の話をしなかったのがよかったと思います。父親は「お前が決めることだ」と言ったそうです。

税理士には、決算申告が終わった6月に、社長が一人で訪ねて口頭で伝え、その場で書面を渡しました。反応は拍子抜けするものだったそうです。「そろそろ潮時だと思っていた。息子さんの代になったのだから、若い先生に頼んだほうがいい」と。資料は2週間後に段ボール1箱で返ってきました。

3年悩んだ結果が、この15分です。断り方で揉めるケースは確かにありますが、こちらが構えすぎているだけ、という場合もかなりあります。

なお、この会社が変えたいと思った直接のきっかけは、決算書の中身を一度も説明されたことがなかったことでした。同じ状態にある会社は多いです。決算書の説明がない|数字を渡されるだけの顧問契約で失っているものもあわせてご覧ください。

切り出し方から相談したい方へ

ミノラス会計事務所では、契約を移るかどうかが決まる前の段階でもご相談を受けています。いまの契約書の解約条項を見て、いつ何を伝えるか、資料として何を求めるかまで一緒に整理します。当事務所に移らない場合でも構いません。

ご相談はチャットワークとオンライン面談に対応しています。

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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太