「銀行に、この決算書だと追加の融資は難しいと言われました。どこがまずいのか、私には分からなくて」
学習塾を経営している社長から、そう相談を受けたことがあります。教室が3つで、生徒はおよそ400名、売上は8,000万円ほど。決算書は毎年きちんと出来上がっていました。ただ社長は、その決算書について税理士から説明を受けたことが一度もありませんでした。
「郵送で送られてきて、押印して返すだけです」と言われて、私はあまり驚きませんでした。決算書を渡されるだけ、という顧問契約は思っている以上に多いです。
問題は、それが手抜きだと気づきにくいことです。申告は期限内に終わっているし、税額の計算も合っている。仕事はされています。ただ、その決算書を社長が使える状態にする工程だけが抜けています。公認会計士・税理士の長島祐太が、そこで何を失っているのかを書きます。
目次
なぜ説明が省かれるのか
悪意で省いているケースは、実はあまり多くありません。構造の問題です。
決算と申告の作業は、3月決算なら5月に集中します。同じ月に何十社もの決算を締める事務所では、申告書を期限内に出すことが最優先になります。そこに社長との面談を1社あたり1時間入れると、担当者の1か月が破綻します。だから、出来上がった決算書を郵送して押印をもらう流れが定着します。
もうひとつは、説明する材料を持っていない場合です。期中に月次を見ていない事務所は、資料をまとめて預かって年に一度作ります。数字は作れますが、なぜ粗利率が落ちたのか、なぜ在庫が増えたのかを説明できません。作った本人が理由を知らないので、話す内容がないのです。
つまり「説明がない」は、単独の症状ではありません。期中に見ていないことの結果として出てきます。
説明がないまま渡されると何が起きるか
銀行との会話が成立しない
一番はっきり出るのがここです。融資の相談に行くと、銀行の担当者は決算書を見ながら質問します。役員貸付金は何ですか、この在庫は何が入っていますか、来期の見通しはどうですか。
このとき社長が答えられないと、金額の問題ではなく姿勢の問題として受け取られます。自社の数字を把握していない経営者だと見られると、そこから条件が良くなることはありません。
納税額が事後報告になる
決算書と一緒に納付書が送られてきて、そこで初めて税額を知る。これも珍しくありません。金額が想定内なら問題は表面化しませんが、想定外に大きいと資金繰りが一気に苦しくなります。
本来、税額の見込みは決算の2か月前には出せます。そこで分かっていれば、納税資金を残す、必要な支出を前倒しする、といった手が打てました。決算後に知らされると、選べる手はもうありません。
数字が経営判断に使われない
粗利率が2ポイント下がっていても、説明されなければ社長は気づきません。気づかなければ、原因を探すこともありません。翌期も同じ理由で下がり続けます。
決算書は過去の記録ですが、使い方によっては来期の材料になります。使われないまま棚に入る決算書は、税務署に出すためだけの書類です。それに毎年、決算料を払っていることになります。
間違いに気づけない
説明の場は、社長にとって唯一の検算の機会でもあります。「この外注費は去年より1,000万円多いですが」と言われて、社長が「そんなに出していない」と気づく。そういうことが実際に起こります。
現場を知っているのは社長です。数字を作るのは税理士です。両方を突き合わせないと、勘定科目の入れ違いや二重計上は見つかりません。押印だけで終わる決算には、この工程がありません。
決算の説明で話されるべき5つのこと
では、まともな決算報告では何が話されるのか。私が必ず入れているのは次の5点です。
・今期の着地と前期との差、そしてその理由
・納税額と、その支払いをどこから出すか
・銀行がこの決算書をどう読むか
・説明を求められる科目が残っていないか
・来期に手を打つとしたらどこか
3つ目の「銀行がどう読むか」は、専門用語を使わずに済みます。見るのは主に2つです。ひとつは自己資本比率で、総資産のうち返さなくていいお金が何割あるか。もうひとつは債務償還年数で、いまの利益と減価償却費のペースで借入を返すと何年かかるか、という数字です。
債務償還年数は、借入残高を「税引後の利益+減価償却費」で割って出します。10年以内なら普通、それを大きく超えると追加融資は厳しくなる、というのが目安です。この数字を社長が知っているかどうかで、銀行との面談の質が変わります。
銀行に断られた学習塾の例
冒頭の会社の数字を見せてもらいました。売上8,000万円、借入残高6,000万円、税引後利益80万円、減価償却費400万円。総資産5,200万円に対して純資産が480万円でした。
債務償還年数を計算すると、6,000万円を480万円で割って12.5年です。自己資本比率は9.2%。銀行が渋った理由はここにありました。返済に12年かかる計算になっている会社に、新しい設備資金を貸すのは難しい、というだけの話です。
社長にそう説明したら、しばらく黙ったあとで「そういうことなら、先に言ってほしかった」と言われました。前の税理士を責めたいのではなく、知っていれば別の順番で動いた、という意味でした。実際、3教室目を出したときの電子黒板と教室システムはリースでも組めましたし、そうしていれば借入は増えていません。
その年にやったのは、まず社長の報酬を下げて利益を出す形に戻すことでした。役員報酬を月10万円下げれば年120万円、税引後で見ても償還年数は1年以上短くなります。同時に、教室ごとの採算を出しました。1教室が生徒数の割に家賃と講師人件費が重く、賃貸借契約の更新に合わせて閉じています。
翌期の決算では、税引後利益が280万円まで戻りました。減価償却費と合わせて680万円ですから、償還年数は9年を切ります。同じ銀行から設備資金が出たのは、その決算書を持って行ったときでした。
難しいことは何もしていません。数字を説明して、打てる手を並べただけです。それが2年遅れたことのほうが、この会社にとっては大きな損でした。
まず説明を求めてみる
説明がないからといって、すぐに税理士を変える必要はありません。求めていないから省かれている、という場合があるからです。
次の決算のときに「決算書の説明の時間をとってください」と伝えてみてください。そのうえで、先ほどの5点を聞いてみる。前期との差はどこから出ているのか、銀行はこの決算書をどう見るのか、来期はどこに手を打つべきか。
これで時間をとってくれるなら、関係は続けられます。実際、要求されて初めて説明の場を作る事務所はあります。顧問料に見合う仕事は本来そこに含まれているので、遠慮する必要はありません。
それでも変わらなかったとき
頼んでも時間をとってくれない、あるいは説明を聞いても質問に答えが返ってこない。その場合は、期中に数字を見ていない可能性が高いです。説明できる材料がないので、時間だけ作っても中身が出てきません。
そこまで確認したうえで変更を考えるなら、動く時期は決まっています。決算申告が終わった直後です。期の途中で動くと、会計データの引き継ぎ費用と解約の予告期間で費用が二重にかかります。詳しくは税理士を変えるベストタイミング|決算後がいい理由と期中変更のリスクに書きました。
説明がないという不満は、たいてい連絡が来ない、訪問がないといった別の不満と一緒に出てきます。同じ原因から来ているからです。その全体像は税理士から連絡が来ない・返事が遅い|放置されている会社に起きることにまとめてあります。
決算書の内容を一度説明してほしい方へ
ミノラス会計事務所では、直近の決算書をお預かりして、前期との差がどこから出ているか、銀行がこの決算書をどう読むかを整理してお伝えしています。顧問契約の前でも構いません。いまの税理士を続けるかどうかの判断材料として使っていただければと思います。
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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太















