役員報酬を期の途中で上げたら、税務調査で否認された|損金にならない増額と、顧問税理士が止めるべきだった場面

「利益が出そうだったので、途中から報酬を上げた。税理士には毎月試算表を送っていたのに、何も言われなかった」

役員報酬の期中増額は、税務調査で指摘される項目の中で、一番見つけやすく、一番言い逃れができないものです。期の後半に大きな受注が決まって利益が出る見込みになり、社長が自分の報酬を上げる。期末の決算は普通に組まれ、申告も出る。1〜2年後の調査で、増額した部分が損金として認められず、追加の税金と加算税を払う。この流れは、社長の判断が間違っていたというより、役員報酬には「期の途中で上げると損金にならない」という明確なルールがあり、それを知っている人が止めなかった、という問題です。

何が起きるのか、いくら払うのか、どうすればよかったのかを順番に書きます。

役員報酬は「毎月同じ額」でないと損金にならない

役員報酬が会社の損金になる条件は、毎月同じ額を払っていることです。従業員の給与は、上げても下げても払った分が損金になりますが、役員は違います。役員は自分の報酬を自分で決められるので、利益が出そうな期だけ報酬を増やして法人税を減らす、ということができてしまう。それを防ぐために、期の中で額が変わった場合、変わった部分は損金として認めない、という仕組みになっています。

たとえば、1か月目から6か月目まで月60万円、7か月目から12か月目まで月100万円を払ったとします。この場合、損金として認められるのは12か月を通じて払われていた60万円の部分だけです。7か月目以降の増額分40万円×6か月、240万円は、払ったお金ではあるけれど、法人税の計算では経費にならない。申告書の上で、利益に240万円を足し戻して税金を計算し直すことになります。この例を、以下でも使います。

否認されると、いくら払うことになるか

否認された240万円に対する追加の税金は、会社の利益の水準で変わります。利益が800万円を超えている会社なら、法人税と地方税を合わせて概算で約80万円。利益が800万円以下の会社なら、同じ240万円でも60万円程度です。

これに過少申告加算税が乗ります。調査で指摘されて修正申告をした場合、追加の税金に対して1割の加算税がつくので、約8万円。さらに本来の申告期限から修正申告までの延滞税が日数分つきます。調査が1〜2年後なら、その分の延滞税です。合わせて90万円前後の出費が、調査のあとに一度に来ます。

よく聞く言い分は「報酬を上げたのは事実で、その分の所得税も払っている。二重取りではないか」というものです。気持ちは分かりますが、法人税の計算で損金になるかどうかと、個人が所得税を払ったかどうかは別の話です。ここが次の節につながります。

個人側の税金と社会保険料は戻らない

役員報酬の増額が否認されても、社長個人が受け取った240万円は給与のままです。所得税と住民税は240万円を含めた金額で計算されていて、それは戻りません。社会保険料も、報酬が上がった時点で等級が上がっていれば、会社負担分と本人負担分の両方が増えたままです。

つまり、否認されると、240万円は会社の損金にならず、個人の給与としては課税され、社会保険料も上がった分を払う、という三重の状態になります。報酬を上げなかった場合と比べると、会社に240万円の利益が残って法人税を払うのと同じ税負担を負いながら、個人側でも税金と社会保険料を払っている形です。期の途中で報酬を上げることで得をする余地は、仕組みの上でほぼありません。

上げてよいのは期首から3か月以内、それ以外は3つの例外だけ

役員報酬を変えてよいタイミングは、期首から3か月以内です。この期間に株主総会や取締役会で決めて、その月からの新しい額を期末まで払い続ければ、全額が損金になります。多くの会社が決算後の定時株主総会で次の期の報酬を決めるのは、このルールに合わせるためです。

3か月を過ぎてから変えてよいのは、次の三つの場合だけです。

・役職が変わった場合。取締役が代表取締役になった、専務が社長になった、など

・業績が著しく悪化して、報酬を下げざるを得ない場合。増額には使えません

・あらかじめ税務署に届け出た日に、届け出た額を払う場合。賞与のような一時金はこの方法で損金にできます

「利益が出そうだから上げたい」は、この三つのどれにも当たりません。利益が出た期に社長に多く払いたいなら、期首から3か月以内に高めの報酬を決めておくか、期首の時点で賞与の額と支給日を届け出ておく必要があります。どちらも、期が始まるときに見通しを立てていないとできないことです。

調査官は役員報酬の何を見ているか

役員報酬の期中変更は、調査官から見ると一番見つけやすい指摘事項の一つです。総勘定元帳の役員報酬の行を12か月分並べれば、額が変わった月は一目で分かります。株主総会の議事録を求めて、その日付と変更の月が合っているか、3か月以内かを見れば、判断は終わります。手間がかからず、金額が確定しやすい論点なので、調査の初日に見られることが多いです。

合わせて見られるのは、議事録の有無と日付です。期首3か月以内に変えていても、議事録がなかったり、あとから日付を遡って作ったと分かったりすると、その改定自体が認められないことがあります。報酬を決めた日の記録を残しておくことは、額を決めることと同じくらい大事です。

もう一つ、社長の個人口座への振込額と、帳簿の役員報酬の額が合っているかも見られます。帳簿上は毎月60万円でも、実際の振込が月によって違えば、差額は役員への貸付か、それとも報酬の変動かを問われます。調査で見られる流れは税務調査の流れの記事に書いています。

顧問税理士が止めるべき場面は3回ある

毎月の試算表を顧問税理士が受け取っている会社なら、7か月目の試算表で役員報酬が60万円から100万円に変わっていたことは、見ていれば分かります。その時点で「期の途中の増額は損金になりません。戻すか、次の期首に上げ直すかにしましょう」と一言あれば、240万円の否認は起きません。

止める場面は三つあります。期中に試算表を見たとき。期末の決算を組んだとき。申告書を作って、役員報酬の損金不算入額を記載する欄を書いたときです。三つとも通り過ぎて調査で指摘される、というケースの多くは、税理士に悪意があるのではなく、試算表を「受け取って保管する」だけで中を読んでいなかった、というのが実態です。

顧問税理士の仕事は、申告書を期限内に出すことだけではありません。期の途中で会社が何をしているかを見て、税金の計算が変わる動きがあれば先に伝えることです。役員報酬の期中変更は、その中でも一番分かりやすい例です。これが通り過ぎる関係なら、ほかにも通り過ぎているものがあると考えたほうがいい。決算書の説明がないという不満は決算書の説明がない税理士の記事に、変えるなら決算後のどのタイミングがよいかは税理士を変えるタイミングの記事に書いています。

今期、もし期の途中で報酬を変えてしまっているなら、決算前に戻せる部分は戻し、来期の期首に正しい手順で決め直すのが現実的な対応です。申告前に自分で損金不算入として処理すれば、加算税はかかりません。調査で指摘されてからでは、同じ金額に加算税と延滞税が乗ります。

毎月の試算表を読んで、先に伝える顧問に変えませんか

役員報酬の決め方、賞与の届出、決算前の見通しを期首に組み立てます。今の税理士からの引き継ぎは当事務所が行います。

税理士の変更をご検討の方へ/料金のご案内

電話:027-386-2807(平日9:00〜18:00)

住所:群馬県高崎市江木町610-10 ミノラスビル3階

ミノラス会計事務所 公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太