法人成りの損益分岐点|利益いくらから得かは役員報酬で変わる【群馬・高崎】

「利益が800万を超えたら法人にしたほうが得だと聞きました」

高崎市内で自動車の板金塗装をされている方が、確定申告を終えた3月に来られたときの言葉です。個人で6年、その年の利益が900万円台に乗ったところでした。

よく言われる話です。ただ、この数字だけで判断すると外します。同じ利益900万円でも、役員報酬をいくらに設定するかで、法人のほうが負担が重くなることがあるからです。

この記事では、法人成りの分岐点を実際に計算して示します。数字の前提も全部書くので、ご自身の場合に置き換えて考えてみてください。

「利益いくらから」だけでは決まらない

法人成りの損得を分けるのは、利益の額そのものではありません。その利益を、役員報酬と法人の利益にどう配分するかです。

個人事業では、利益がそのまま事業主の所得になります。分けようがない。ところが法人にすると、同じ利益を給与と会社の利益に振り分けられます。給与所得控除が使える一方、社会保険料は給与の額に応じて増える。

この配分を間違えると、法人成りしたのに手取りが減ります。実際にそうなっている会社を見たことがあります。

ですから「利益いくらから」という問いには、「役員報酬をいくらにするかによる」としか答えられません。そのうえで、現実的な設定を置いて計算すれば、目安は出せます。

計算の前提を置く

以下の条件で計算しました。前提が変われば結果も変わるので、そのまま当てはめないでください。

事業主本人のみ。扶養親族なし

40歳未満(介護保険料の上乗せなし)

個人は青色申告特別控除65万円を適用

国民健康保険は高崎市の水準で概算。個人事業税は第一種事業5%

法人の役員報酬は年480万円(月40万円)に固定

法人税等は実効税率で概算。均等割7万円を含む

比較しているのは、税金と社会保険料を合計した年間の負担額です。社会保険料は会社負担分も含めています。会社の負担も、突き詰めれば同じ財布から出るお金だからです。

分岐点は利益700万円あたりにある

利益ごとの年間負担額の概算です。

利益600万円 個人174万円/法人193万円 個人が19万円有利

利益700万円 個人216万円/法人218万円 ほぼ互角

利益800万円 個人259万円/法人243万円 法人が16万円有利

利益1,000万円 個人342万円/法人293万円 法人が49万円有利

利益1,200万円 個人427万円/法人343万円 法人が84万円有利

分岐点は700万円あたりです。よく言われる500万円という線より、少し高いところにあります。

なぜ高いのか。社会保険料が効いているからです。個人事業の国民健康保険には上限があり、所得が増えても保険料は頭打ちになります。一方、法人の厚生年金と健康保険は労使折半で、会社負担分が新たに発生する。この差が、法人成りの効果を打ち消す方向に働きます。

逆に利益が800万円を超えると、個人の所得税率が上がる効果のほうが大きくなり、法人が有利に転じます。1,000万円を超えたあたりから差がはっきりしてきます。負担そのものの内訳は一人親方の法人成りに月額で書きました。

個人事業の負担が利益とともに急に重くなるのは、3つの税が同時に上がるからです。所得税の税率は課税所得が上がるほど段階的に上がります。住民税は10%で一定ですが、課税所得そのものが増える。さらに個人事業税が、事業主控除290万円を超えた部分に5%かかります。

利益600万円と1,200万円を比べると、利益は倍ですが負担は174万円から427万円で2.4倍になっています。この増え方が、法人成りを考える動機になります。

全額を役員報酬にすると、法人のほうが損になる

ここが今回いちばん伝えたい部分です。

法人成りしたあと、利益をほぼ全額そのまま役員報酬として取り出したらどうなるか。同じ条件で計算し直しました。

利益800万円 個人259万円/法人277万円 法人が18万円不利

利益1,000万円 個人342万円/法人356万円 法人が14万円不利

利益1,200万円 個人427万円/法人431万円 ほぼ互角

逆転します。利益1,000万円でも、法人のほうが14万円重くなる。

理由は社会保険料です。役員報酬を上げれば標準報酬月額が上がり、会社負担と本人負担の両方が増えます。給与所得控除で所得税は下がりますが、社会保険料の増加がそれを上回ってしまう。

個人事業のときの感覚のまま、利益を全部自分に回そうとすると、この形になります。「法人にしたのに手取りが減った」という話の正体は、だいたいここです。

法人成りが効くのは、利益を会社に残せる場合です。生活費として必要な額だけを役員報酬にして、残りは会社に置く。会社に残した利益は法人税の対象になりますが、税率は個人の高い税率より低い。この構造を使えるかどうかが分かれ目になります。

この計算に出てこない要素

税金と社会保険料の比較だけでは、判断材料が足りません。数字に出ない要素を挙げておきます。

まず消費税です。資本金1,000万円未満で設立すれば、原則として1期目は免税になります。個人で課税事業者になっている方が法人成りすると、この期間が生まれる。売上規模によっては、これだけで先ほどの差を超えます。設立日と決算期の組み合わせで期間が変わるので、会社設立日はいつにすべきかもあわせて読んでください。

次に社会保険の中身です。負担は増えますが、厚生年金は将来受け取る額に反映されます。健康保険には傷病手当金があり、けがで働けない期間の補償が付く。現場に出る仕事なら、この差は金額以上の意味があります。

それから信用です。法人でないと取引口座を開かない発注先があります。融資でも、法人のほうが選択肢が広い。板金塗装の場合、ディーラーや保険会社との取引で法人格が前提になる場面が出てきます。

逆に、法人にすると増えるコストもあります。設立費用、毎年の均等割7万円、決算申告の手間。赤字でも均等割はかかります。

判断の順番

相談を受けたときは、この順で詰めています。

1 利益が来期以降も同じ水準で続きそうか。一時的な数字なら見送る

2 生活費として毎月いくら必要か。ここが役員報酬の下限になる

3 会社に利益を残せるか。残せないなら法人成りの効果は薄い

4 消費税の免税期間をどれだけ取れるか

5 取引先や許認可の事情で、そもそも法人が必要か

2番と3番が、実は一番時間のかかるところです。生活費を正確に把握していない方が多い。ここが曖昧なまま役員報酬を決めると、あとで足りなくなって、期の途中で変えられずに困ることになります。

板金塗装の方の場合は、役員報酬を月40万円に設定して、残りを会社に残す形にしました。工場の設備更新を数年内に予定していたので、会社に資金を貯める必要があったからです。設備投資の資金を借りる場合も、会社に利益が残っている決算書のほうが話が早くなります。借入先の考え方は創業融資はどこで借りるべきかにまとめました。

設立の進め方は会社設立の流れと必要書類、資本金の決め方は資本金はいくらにすべきか、設立後の届出は会社設立後の届出一覧をご覧ください。

法人成りを検討されている方へ

確定申告書をお持ちいただければ、ご自身の数字で個人と法人を比較して試算します。役員報酬をいくらに置くかまで含めて、金額でお示しします。会社設立の手数料はいただいていません。

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