「4月から法人でないと発注が出せない、と元請から言われました」
2月の下旬、高崎市内で電気工事の仕事をしている方が事務所に来られたときの第一声です。市内の電気工事会社に15年勤めたあと独立して、個人事業主として2年。確定申告も2回済ませています。そこへ取引先から法人化を求められた。
相談内容は「4月1日に間に合うか」の一点でした。結論から言うと間に合いました。ただし、あと1週間相談が遅ければ危なかったと思います。
会社設立の手続きは、書類の数だけを見ればそれほど多くありません。つまずくのは書類ではなく順番と日程です。個人事業からの法人成りの場合は、設立の手続きと並行して個人側を閉じる手続きも走ります。この記事では、高崎で株式会社を設立する場合の流れを、実際に動く日付に落として書きます。
目次
設立日は自分で決められる。ただし土日は選べない
会社の設立日は、登記を申請した日になります。法務局が書類を受け取った日です。審査が終わった日でも、登記事項証明書が出た日でもありません。
つまり設立日は自分で選べます。創業記念日にしたい日、元請との契約に合わせたい日、決算期から逆算した日。希望があるなら、そこを起点に全部の日程を組みます。
ただし法務局が開いている日でなければ申請できません。土曜、日曜、祝日、年末年始は選べない。高崎で登記を出す先は前橋地方法務局高崎支局です。1月1日を設立日にしたい、という相談を過去に受けたことがありますが、これは物理的に無理です。
オンライン申請を使えば、窓口に行かずに申請できます。それでも受付は開庁時間内です。夜中に送信した分が翌開庁日扱いになると、設立日が1日ずれます。日付にこだわりがあるなら、ここは慎重に確認してください。
手続きは6つの段階に分かれる
株式会社を設立する場合、やることは大きく6つです。
1. 基本事項を決める
商号、本店所在地、事業目的、資本金の額、発行株式数、役員、決算期。この7つが決まらないと何も先に進みません。
ここが一番時間がかかります。書類作成は事務作業ですが、これは経営判断だからです。資本金をいくらにするかで登録免許税も変わりますし、その後の消費税の扱いも変わります。
2. 印鑑証明書を取り、会社の実印を作る
発起人と取締役全員の印鑑証明書が必要です。市役所か行政サービスセンター、あるいはコンビニ交付で取れます。会社の実印は印章店に発注します。ゴム印や銀行印とセットで頼むと、できあがりまで数日から1週間ほど見ておいたほうがいい。
3. 定款を作り、公証役場で認証を受ける
株式会社は定款の認証が必要です。合同会社には認証がありません。ここが両者の手続き上の一番大きな違いです。
認証は事前予約制です。原案を公証役場に送って内容を確認してもらい、指摘があれば直し、それから予約を取って出向く。この往復に数日かかります。当日いきなり行ってその場で終わる手続きではありません。
紙の定款には収入印紙4万円が必要ですが、電子定款にすれば不要です。専用の環境が必要なので、自分でやるより専門家に頼んだほうが結果的に安く済むことが多い。
4. 資本金を払い込む
発起人個人の口座に資本金を入金し、その通帳のコピーを添付します。会社の口座はまだ作れないので、個人の口座を使います。
注意点は日付です。払込は定款を作成した日以降でなければなりません。すでに口座に300万円入っている状態では足りず、いったん出して入れ直すか、別口座から振り込んで記録を作ります。
5. 登記を申請する
申請書、定款、払込証明書、就任承諾書、印鑑届書などをまとめて法務局に出します。この日が設立日です。登録免許税は資本金の0.7%、最低15万円。合同会社なら最低6万円です。
6. 登記完了後、証明書を取る
申請から完了までは1週間から10日程度です。完了して初めて登記事項証明書と印鑑証明書が取れます。この2つがないと、銀行口座も作れませんし、税務署への届出も出せません。
必要書類は「集めるもの」と「作るもの」に分けて考える
書類の一覧を渡すと、たいていの方が量に驚きます。ただ分けて見れば、そんなに大変ではありません。
自分で集めるのは印鑑証明書と資本金を入れた通帳のコピー、それに会社実印。実質この3つだけです。
作るのは定款、発起人決定書、取締役の就任承諾書、払込証明書、登記申請書、登記すべき事項を記録した書面、印鑑届書。
このうち定款以外はほぼ定型です。事務所に依頼していただければ、こちらで作って押印箇所に付箋を貼ってお渡ししています。
個人の手間として実際にかかるのは、印鑑証明書を取りに行くことと、実印を発注すること、資本金を振り込むこと。この3つだけだと思っておいてください。
高崎で4月1日設立に間に合わせた実際の日程
冒頭の電気工事業の方の場合です。個人事業のときの売上が年間2,000万円ほど。資本金は300万円、株式会社、役員は本人1名。資本金は個人事業で貯めた事業資金から出しました。
2月下旬 初回相談。商号と事業目的を詰める
3月2日 基本事項が確定。資本金300万円、決算期は3月末に決定
3月上旬 印鑑証明書の取得、会社実印の発注
3月中旬 定款の原案を公証役場に送付、修正のやりとり
3月19日 定款認証
3月23日 資本金300万円を払込
4月1日 登記申請。設立
4月10日ごろ 登記完了。証明書を取得し、税務署等へ届出
決算期を12月にしたいと最初は言われました。個人事業を12月で締めていた感覚が、そのまま残っていたのだと思います。ただ4月1日設立で12月決算にすると、1期目が9か月で終わります。決算期をどこに置くかは、1期目をどれだけ長く取れるか、消費税をいつから納めることになるかに直結する話です。相談のうえ3月末に決めました。決算作業は4月から5月に集中しますが、電気工事の繁忙期である年度末はすでに過ぎているので、手は空いています。
法人成りの年は、個人としての確定申告も残ります。1月1日から法人成りの日までの分を、翌年3月15日までに申告する。この年だけ個人と法人の両方の申告が発生することは、先に伝えておく必要があります。
同じ時期に、3月中旬に相談に来られた別の方は4月1日に間に合いませんでした。印鑑証明書の取得と実印の発注、定款認証の予約でどうしても2週間近くかかるからです。逆算すると、設立日の3週間前が相談の実質的な締切だと考えています。
つまずくのはこの4か所
事業目的に許認可の要件が入っていない
建設業許可、産業廃棄物の収集運搬、古物商、人材派遣。許認可が要る仕事は、定款の事業目的の書き方で申請が止まります。設立後に目的を追加するには変更登記が必要で、登録免許税が3万円かかります。
電気工事の方も、将来的に建設業許可を取る可能性を考えて、いま受注していない工事の目的も入れました。今後やる可能性が少しでもあるものは、最初に入れておくほうが安い。
登記完了までの空白期間を計算に入れていない
設立日と、会社として動き出せる日は違います。申請から完了まで1週間から10日。そのあと銀行口座の開設に、さらに2週間から3週間かかることも珍しくありません。
4月1日設立でも、会社名義の口座に入金してもらえるのは5月に入ってから、という可能性があります。取引先への請求と入金の段取りは、そこまで見て組んでおいてください。
設立後の届出を忘れる
法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書。提出先も税務署、群馬県の県税事務所、高崎市役所、年金事務所と分かれます。
なかでも青色申告の承認申請書は期限を過ぎると1期目が白色になります。赤字を繰り越せず、少額減価償却資産の特例も使えない。登記が終わって気が緩むころなので、ここは本当に注意してください。
個人事業を閉じる手続きを後回しにする
法人成りの場合、会社をつくる手続きだけでは終わりません。個人事業の側を閉じる届出が別に要ります。
個人事業の開業・廃業等届出書(廃業から1か月以内)
所得税の青色申告の取りやめ届出書
給与を払っていたなら給与支払事務所等の廃止届出書
消費税の課税事業者だったなら事業廃止届出書
法人の届出に気を取られて、こちらが半年放置されている例をよく見ます。加えて、個人で使っていた工具や車両、リース契約、元請との基本契約、事業用の口座。これらをどう法人へ移すかは別の判断が必要で、単に「今日から法人です」と言えば済むものではありません。
電気工事の方の場合は、工具と軽トラックを法人へ譲渡する形にしました。金額の決め方と個人側の所得の扱いは、設立の相談と同じ日に整理しています。
融資を考えているなら、設立の前に順番を決めておく
創業融資を使うつもりなら、設立の手続きに入る前に相談してほしいと思っています。
資本金をいくらにするかは、設立費用の話であると同時に、自己資金をどう見せるかの話でもあるからです。手元の資金を全部資本金に入れてしまって、面談で運転資金の余裕を説明できなくなる例があります。金額の決め方は資本金はいくらにすべきかに書きました。
どこから借りるかも先に決めておいたほうがいい。高崎市には創業者向けの利子補給があります。公庫に申し込む前に確認すべき制度で、創業融資はどこで借りるべきかで整理しています。申込みに必要な書類は創業融資の必要書類一覧にまとめました。
当事務所では会社設立の手数料をいただいていません。会社設立サポートと創業融資サポートは、そもそも同じ相談の中で一緒に決まっていくものだと考えているからです。
冒頭の電気工事の方は、設立後に運転資金の融資も実行しました。元請の支払いサイトが長く、材料の仕入れが先に出る業種です。設立の相談の段階でその話をしていたので、登記完了後すぐに動けました。
高崎で会社設立をお考えの方へ
設立日の希望がある場合は、3週間前までにご相談ください。定款の事業目的、資本金の額、決算期まで含めて一緒に決めます。設立手数料はいただいていません。
ミノラス会計事務所
TEL 027-386-2807(平日9:00〜18:00)
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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太















