「税務調査って、うちみたいな小さい会社にも来るんですか」
会社を作ったばかりの方から、よく聞かれます。だいたい設立の手続きが一段落して、少し落ち着いたころです。
来ます、と答えています。ただし今年ではありません。
税務調査は、設立1期目の会社にはまず来ません。申告が1回か2回しかない会社を調べても、見るものが少ないからです。来るとしたら3期目以降。設立から3年、4年経ったころです。
問題は、そのときに調べられるのが1期目からの帳簿だということです。3年後に来る人が、1年目のノートを開く。だから、起業したばかりのいまの処理が、そのまま3年後に効いてきます。
今回は、これから起業する方、起業して間もない方に向けて、税務調査で何を見られるのか、そして開業時に何をしておけば困らないのかを書きます。
目次
1. 税務調査はいつ来るのか
法人のうち、1年間に実地の税務調査を受けるのは数パーセント程度です。毎年来るものではありません。
ただ、確率が低いことと、来ないことは違います。10年、20年と事業を続けていれば、どこかで当たります。
タイミングとして多いのは3期目から5期目です。理由は単純で、調査は通常3期分をまとめて見るからです。1期目に来ても、見られる決算書が1つしかない。3期分そろってから来るほうが効率がいい。
それから、事業が伸びている会社ほど来やすい傾向があります。売上が急に増えた、利益が大きく動いた。数字の変化は、税務署から見て分かりやすい信号です。
つまり、うまくいけばいくほど来ます。調査が来るのは事業が育った証拠でもある、という言い方もできます。
2. 疑われた会社に来るわけではない
ここは誤解している方が本当に多いところです。
税務調査の連絡が来ると、「何か悪いことをしたと思われているのか」と青ざめる方がいます。そうではありません。申告内容の確認が目的で、多くは通常の調査です。
実際、何も指摘なく終わる調査もあります。何かしら修正が入ることのほうが多いのは事実ですが、その中身は意図的な脱税ではなく、処理の誤りや判断の相違がほとんどです。
怖がる必要はありません。ただ、準備をしていないと余計な時間と税金を払うことになります。怖いのは調査そのものではなく、説明できない帳簿です。
3. 起業した人がつまずく5つのポイント
売上をいつ計上したか
いちばん見られます。売上は、入金した日ではなく、商品を引き渡した日、サービスを提供した日に計上します。
3月決算の会社が、3月中に納品した工事の代金を4月に受け取った。この売上は3月期に計上します。入金ベースで記帳していると、ここがずれます。
決算期をまたぐ取引は必ず見られると思っておいてください。期末前後の請求書は、日付が読めるように別にまとめておくといいです。
外注費なのか給与なのか
建設、内装、美容、運送。人に仕事を頼む業種で必ず問題になります。
外注費として払っているつもりが、実態は給与だと判断されることがあります。そうなると、源泉徴収をしていなかった分の税金を会社が払うことになり、さらに消費税の仕入税額控除も否認されます。二重に効きます。
判断の目安は、その人が代わりの人を立てられるか、こちらの指揮監督下にあるか、報酬を相手から請求してくるか、材料や道具を誰が負担しているか。契約書の名前ではなく、実態で見られます。
高崎市内で内装業をされている方に同席したときも、ここが論点になりました。長く手伝ってもらっている職人さんが2名。請求書はなく、毎月同じ日に現金で同じ額を渡していました。道具も会社のものです。これは説明が難しい。
この件は、その後の処理を整理して落ち着きましたが、最初から請求書をもらい、道具の扱いを決めておけば論点にならなかった話です。
家事按分と私的な支出
自宅の一部を事務所にしている、車を仕事とプライベート両方で使っている、携帯代を会社で払っている。起業直後はこの形が普通です。
問題は、按分の根拠を説明できるかです。自宅なら床面積の割合、車なら走行距離、携帯なら使用実態。何割にしたかより、なぜその割合なのかを聞かれます。
それから、家族との食事や日用品を経費に入れているケース。これは説明できません。私は最初の面談で必ず伝えています。グレーなものを少し入れるより、はっきり分けたほうが結果的に得です。
現金売上の管理
飲食店、小売店、サロン。現金を扱う商売は、そこを重点的に見られます。
レジの記録、日々の売上メモ、通帳への入金。この3つがつながっているかが確認されます。売上メモを捨ててしまう方がいますが、残しておいてください。レジの精算記録も同じです。
現金商売で怖いのは、実際に隠していなくても、記録がないと説明できないことです。
領収書と請求書の保存
法人は帳簿書類を原則7年間保存する義務があります。欠損金を繰り越している事業年度は10年です。
「なくしました」は通りません。経費として認められなくなります。特に高額な支出の領収書は、月ごとに封筒にまとめておくだけで十分です。
電子帳簿保存法の要件もあります。メールやウェブで受け取った請求書は、紙に印刷して保存するだけでは要件を満たしません。この対応は起業時に決めておいたほうが後が楽です。
4. 実際に来たときに何が起きるか
流れを知っておくと、必要以上に構えずに済みます。
まず、事前の連絡があります。顧問税理士がいれば税理士へ、いなければ会社へ電話です。日程は相談して決められます。繁忙期を避けたい、と伝えて構いません。
当日は、調査官が1名か2名。小規模な会社なら2日程度が一般的です。午前は事業内容や取引の流れを聞かれ、午後から帳簿を見る、という進み方が多い。
終わった日にその場で結論が出ることは、ほとんどありません。後日、指摘事項が伝えられ、こちらの説明を挟んでやりとりが続きます。ここが実は本番です。
修正が必要になれば、修正申告をして不足分の税金を納めます。加えて、過少申告加算税や延滞税がかかります。意図的に隠していたと判断されると重加算税になり、負担が跳ね上がります。
誤解を恐れずに言えば、単純な処理の誤りと、意図的な仮装隠蔽では、扱いがまったく違います。分からなかった、間違えた、というものは説明すれば通ります。
5. 開業時にやっておけば3年後に困らない3つのこと
ここからが本題です。起業したいまの段階でできることは、3つあります。
通帳を事業用と生活用で分ける
最初にこれをやるかどうかで、3年後の手間がまるで違います。事業の入出金がすべて1本の通帳を通っていれば、帳簿の裏づけがそのまま揃います。融資実行後の資金繰り|据置期間中にやるべきことでも書きましたが、口座を分けることは資金繰りの管理にもそのまま効きます。
現金でのやりとりを減らす
仕入も外注費も、できるかぎり振込にします。手数料はかかりますが、記録が残ります。現金で払ったものは、領収書がなければ何も残りません。
毎月記帳する
決算前にまとめて1年分を処理すると、記憶が飛んでいます。この支出は何だったか思い出せない、という状態で作った帳簿は、3年後の調査で説明できません。
毎月やっていれば、その場で判断できます。判断した内容をメモに残しておけば、なお安全です。
6. 連絡が来たときにやってはいけないこと
3つあります。
ひとつ、書類を作り直すこと。連絡を受けてから領収書や契約書を整えると、仮装と判断されるおそれがあります。足りないものは足りないまま出して、説明したほうが軽く済みます。
ふたつ、聞かれていないことまで話すこと。緊張して喋りすぎ、確認されていない論点を自分から開いてしまう方がいます。聞かれたことに、事実で答える。それだけです。
みっつ、その場で結論に同意すること。指摘されたことに納得できないなら、持ち帰って構いません。事実関係を確認したうえで回答します、と言えば通ります。
起業したばかりの段階では、税務調査はまだ遠い話です。ただ、遠いからこそ、いまの処理を整えておく価値があります。3年後に慌てて過去を掘り返すより、いま口座を分けて、毎月記帳しておくほうがずっと楽です。
設立の段階から関わらせていただくと、この土台を最初から作れます。会社設立や創業融資のご相談を受けるときも、私は3年後の帳簿を意識して初期の処理を決めています。資本金はいくらにすべきかで書いた消費税の判定なども、設立時の決め方が後から効いてくる論点です。
私がどういう考えで創業支援に関わっているかは、代表挨拶をご覧ください。
創業融資・会社設立のご相談
ミノラス会計事務所では、会社設立や創業融資の段階から、その後の帳簿づくりまで見据えてお手伝いしています。設立後の記帳や申告もあわせてご依頼いただけます。
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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太















