法人成りと信用力|500万円の相談が150万円になった理由【群馬・高崎】

「法人にしたら、銀行はもっと貸してくれるようになりますか」

高崎市内でハウスクリーニングと便利屋仕事をしている方から、最初の面談でそう聞かれました。個人事業で7年。エアコンの分解洗浄も、退去後の原状回復も、庭木の剪定や不用品の片付けも引き受ける。仕上がりは管理会社から評価されている。ただ、外注費と材料の立替が重くなってきて、運転資金を借りたい。個人のままで動くべきか、法人にしてからのほうがいいのか、というご相談でした。

結論から言えば、法人にしただけで借入枠が増えることはありません。増えるのは枠ではなく、金融機関に見せられる資料の種類です。そして、その資料をどう作るかは法人成りの前から始まっています。この方の場合、法人になってから借りられた金額は、個人事業のときに提示された額の3倍を超えました。差を生んだのは会社の形ではなく、申告書の中身でした。

個人事業の借入は、申告書1枚で上限が決まる

個人事業主が事業資金を借りるとき、金融機関に出す書類はほぼ決まっています。確定申告書と青色申告決算書。直近2期か3期分。加えて通帳のコピーと、借入がある場合は返済予定表。事業計画書を求められることもありますが、審査の土台になるのは申告書です。

ここで効いてくるのが、青色申告決算書に「所得」という一行しかないことです。事業で残った金額が、そのまま事業主の取り分になる。生活費として使った分も、事業に置いておいた分も、書類の上では区別されません。金融機関から見れば、返済原資は所得の中から生活費を引いた残り、ということになります。所得400万円で家族を養っている方が、年間200万円の返済に耐えられるとは判断されません。

個人事業にも貸借対照表はありますが、青色申告特別控除65万円を取るために作るもので、事業用の資産と個人の資産が混ざっています。事業主貸と事業主借という科目で生活費の出入りが処理されるため、財務内容を読み取る資料としては情報が足りません。

1,000万円の相談に、300万円という回答が返ってきた

冒頭の方は、個人事業のときに一度、取引のある信用金庫へ運転資金の相談に行っています。希望額は500万円。退去が重なる3月と4月は、パート1名の給与と、繁忙期だけ頼む職人への外注費、クロスや床材の仕入れが月末にまとめて出ていきます。管理会社からの入金は翌々月。この立替が百万円単位で先行します。

返ってきた提示は150万円でした。理由の説明は、申告所得が300万円台であること、その一点だったそうです。

面談で申告書を見せてもらって、事情はすぐに分かりました。売上は2,200万円あります。実際に手元に残っていた金額は700万円ほど。ところが申告書の所得は380万円でした。前の税理士から勧められたわけではなく、ご自身の判断で、期末に高圧洗浄機とエアコン洗浄の機材を買い足し、軽バンを入れ替え、経費になりそうなものを積み上げていた。所得税と国民健康保険料を下げるための、よくある動き方です。

「税金を減らすつもりで、借りられる額を減らしていた」と申し上げました。その方は少し黙ってから、「そんなの誰も教えてくれなかった」と言いました。

法人になると、審査に使われる書類が入れ替わる

個人時代の申告書は消えない

法人成りをしても、過去の申告書が無効になるわけではありません。設立直後の会社には決算書がないので、金融機関は個人事業時代の確定申告書を見ます。日本政策金融公庫高崎支店でも、群馬県信用保証協会を通す場合でも、同じことを求められます。事業としては継続しているのだから当然の扱いです。

法人成り直後の借入は、実質的に個人事業の実績で審査されます。法人にしたので新しくスタートできる、と考えると話が合わなくなります。

法人と個人の財布が分かれることの意味

1期目の決算が終わると、状況が変わります。出てくるのは法人の決算書と法人税の申告書、そして勘定科目内訳明細書です。役員報酬という科目があるので、社長がいくら取っているかが明示される。会社に残した利益と、社長個人が持っていった金額が、書類の上で分かれます。

金融機関が見たいのは、社長個人の生活費を差し引いた後で、会社に返済能力がどれだけ残るかです。個人事業ではこの二つが渾然一体でしたが、法人ではそのまま数字として読めます。役員報酬を差し引いた後の利益と減価償却費を足したものが、返済に回せる金額の目安になります。

法人になって借りやすくなるのは、この読み取りやすさが理由です。会社の形そのものに信用があるわけではありません。

節税で圧縮した所得は、そのまま借入の天井になる

この方には、法人成りにあたって方針を一つだけ変えてもらいました。利益を無理に消さない、ということです。

資本金100万円で株式会社を設立し、決算期は9月末。役員報酬は月38万円、年456万円に設定しました。社会保険料の会社負担がここに乗ります。標準報酬月額38万円で計算すると、厚生年金が月69,540円、健康保険が月37,240円、子ども・子育て拠出金が月1,368円。厚生年金と健康保険は労使折半なので、会社が負担するのは月54,758円、年間で約66万円です。介護保険の対象外である40歳未満、賞与なしを前提とした概算で、料率は毎年見直されます。

個人事業のときに手元に残っていた700万円から、役員報酬456万円と社会保険の会社負担66万円を引くと、178万円ほど。1期目はこれをそのまま利益として計上し、法人税等を約50万円納めました。期末に機材を買い込むことはしていません。

2期目に入ってから、群馬県信用保証協会の保証付きで500万円の運転資金が実行されました。1期目の決算書が黒字で、役員報酬の水準も生活実態と釣り合っていて、資金使途が春の立替の増加という説明できる内容だったからです。個人事業のときに150万円と言われた案件と、事業の中身は何も変わっていません。

50万円の法人税等を払って500万円を引き出した、という言い方もできます。設備投資や人の採用を控えている段階で所得を削りにいく判断が、どれだけ高くつくかという話です。利益をどこまで会社に残すかの考え方は法人成りの損益分岐点|利益いくらから得かは役員報酬で変わるにまとめてあります。

役員報酬を取りすぎた法人は、個人事業より信用が落ちる

法人成りをした方の決算書で、よく見かける形があります。役員報酬を高く設定した結果、会社が赤字になっているものです。社長個人には報酬が支払われているので生活は回っている。ただ、法人としては欠損です。

これは個人事業のときより不利になります。個人事業なら「所得400万円」という一つの数字で済んでいたものが、法人では「役員報酬600万円、当期純損失120万円」という二つの数字に分かれて見える。金融機関の担当者は、社長が会社から抜いた結果として会社が回らなくなっている、と読みます。返済原資を計算する式に、マイナスの利益が入ってしまう。

役員報酬は原則として期首から3か月以内に決めたら1年間動かせません。業績が良くなったから増やす、悪くなったから減らす、ということが自由にできない。設立1期目に借入の予定があるなら、報酬額を決める時点で決算の着地と、そこに何を残すかまで考えておく必要があります。金額の決め方そのものは別の記事で扱っています。

経営者保証を外す制度は、法人にしか用意されていない

個人事業主の借入は、事業主本人の債務です。誰かが保証するという構造ではなく、最初から本人が全額を負っている。だから、保証を外すという発想自体が成り立ちません。

法人は違います。借りるのは会社で、社長は連帯保証人という別の立場に立つ。ここが分かれているからこそ、保証を付けるか付けないかという選択が生まれます。

信用保証協会には、スタートアップ創出促進保証という全国共通の制度があります。創業予定者と創業後5年未満の法人が対象で、創業関連保証の保証料率に0.2%を上乗せすることで経営者保証を不要にできる。保証限度額は3,500万円、保証割合は100%、保証期間は10年以内です。税務申告を1期も終えていない段階で使う場合は、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要になります。利用後は法人設立から3年目と5年目に、ガバナンス体制の整備に関するチェックを受けることが原則とされています。

日本政策金融公庫にも経営者保証免除特例制度があり、要件を満たせば金利の上乗せと引き換えに代表者保証を外せます。上乗せ幅は適用される利率や要件によって変わるので、個別に確認が必要です。

個人事業から法人成りしたケースを「創業後5年未満」としてどう扱うかは、個人事業の期間を通算するかどうかで判断が分かれることがあります。使えるつもりで進めて土壇場で外れると資金繰りに響くので、金融機関か協会に事前に確認してください。融資の組み立て方は創業融資はどこで借りるべきか|公庫の前に高崎市の利子補給を確認でも触れています。

元請が見ている信用は、金融機関とは別の物差し

現場系の仕事では、金融機関よりも先に元請から信用を問われることがあります。この方も、法人成りの直接のきっかけは資金ではなく、取引先の不動産管理会社から社会保険の加入状況を確認されたことでした。

管理会社が見るのは決算書ではありません。法人であること、社会保険に入っていること、賠償責任保険に入っていること。退去後の物件を任せる以上、鍵を預けて室内で作業をさせることになるので、個人よりも法人を選びたがります。同じ会社を評価しているのに、銀行と元請では見ている場所が違う。社会保険の負担額の計算例は一人親方の法人成り|元請に期限を切られてから決める6つのことをご覧ください。

借入を予定しているなら、決算期から逆算して時期を決める

法人成り直後は、決算書がない期間が続きます。この空白が長いほど、個人事業時代の申告書だけで審査される状態が続く。1期目の決算を早く迎えれば、それだけ早く法人としての実績を提示できます。

この方は5月に設立し、決算期を9月末に置きました。1期目は5か月しかありません。短いぶん利益も小さくなりますが、黒字の決算書が10月には手元にできる。年内に金融機関へ持ち込めます。決算期を4月末にしていたら、同じ相談が1年近く遅れていました。

1期目を短くすると、インボイス登録をしない選択ができる場合には免税期間も短くなります。この方は取引先が管理会社中心で登録を避けられないため、そこは考えずに決算期を決めました。設立日と決算期の組み合わせで動く金額については会社設立日はいつにすべきか|1日ずらすと均等割が5,900円変わるで具体的に計算しています。資本金の水準も融資の見え方に影響するため、資本金はいくらにすべきか|迷うなら100万〜300万円、その理由も併せて確認しておくと判断が早くなります。

借入の相談を受けてから設立日を決めるのと、設立が終わってから借入を考えるのとでは、選べる手が違います。順番を逆にしないでください。

法人成りと借入のご相談

ミノラス会計事務所では、法人成りの時期の設計から、金融機関へ提出する資料の作成、融資実行後の資金繰りまで一貫してお手伝いしています。個人事業の申告書を拝見すれば、いまの状態でいくらまで借りられるか、法人にすると何が変わるかを具体的にお伝えできます。

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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太