個人事業主から法人化するタイミング|売上ではなく利益で決める理由【群馬・高崎】

「そろそろ法人にしたほうがいいと、取引先に言われまして」。高崎で電気工事業を営まれている方が、確定申告の控えを持って相談に来られました。売上は1,300万円ほど。ご本人は「売上1,000万円を超えたら法人化」と聞いていたそうです。数字を一通り見て、私はその年の法人化を止めました。翌々年に法人化して、いまは順調に回っています。

法人化のタイミングは、売上では決まりません。決めるのは利益と、社会保険料と、消費税です。私自身も個人から法人にした経験があり、そのうえで年に何件も同じ相談を受けています。今日はその判断の中身を、順番にお話しします。

「売上1,000万円」は法人化の目安ではない

この数字がひとり歩きしているのには理由があります。消費税の課税事業者になるかどうかの基準が、基準期間(原則として2年前)の課税売上高1,000万円だからです。つまり1,000万円は「消費税を納め始める境目」であって、「法人にしたほうが得になる境目」ではありません。

売上1,300万円でも、材料費と外注費で1,100万円出ていく事業なら、手元に残る利益は200万円です。この状態で法人にすると、税金が減るどころか、社会保険料と法人住民税の均等割が新しく乗ってきます。逆に売上800万円でも、ほぼ人件費のかからないコンサルティング業で利益が650万円残るなら、法人化の検討に十分入ります。

売上は、事業の大きさを表す数字です。税負担を決めるのは利益です。ここを取り違えたまま法人化して、毎月の資金繰りが苦しくなった方を実際に見ています。

見るべきは課税所得。分岐点はおおむね600万〜800万円

個人の所得税は累進課税です。課税所得が増えるほど税率が上がり、住民税10%と合わせると、課税所得695万円を超えたあたりから合計33%(所得税23%+住民税10%)、900万円を超えると43%の世界に入ります。事業所得にはこれに国民健康保険料も乗ります。

一方、法人税は所得800万円以下の部分が15%、それを超える部分が23.2%です(中小法人の場合)。地方税を含めた実効税率でもおおむね25%前後に収まります。しかも法人にすれば、自分に役員報酬を払い、その役員報酬に給与所得控除を使えます。同じ利益でも、個人と法人で課税のされ方がまったく違うわけです。

実際に相談で使っている目安

私が相談の場で最初にお伝えしている水準はこうです。

・課税所得400万円未満 ── 法人化は早い。個人のままで問題ない

・課税所得600万〜800万円 ── 検討ゾーン。他の条件次第で判断が割れる

・課税所得900万円以上 ── 特別な事情がなければ法人化を勧める

「検討ゾーン」で判断が割れるのは、次にお話しする社会保険料があるからです。税金の計算だけで比較すると、600万円台でも法人有利という答えが出ます。ところがそこに社会保険料を入れた瞬間、答えがひっくり返ることがあります。

社会保険料は増える。それでも法人化を勧める理由

法人化をためらう理由として、いちばん多く挙がるのがこれです。法人は社長ひとりの会社でも社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務です。国民健康保険・国民年金と違い、会社と本人で折半します。折半といっても会社の財布はご自身の財布ですから、実質は全額の負担です。ここで足が止まる方は本当に多い。

ただ、多くの場合は比べ方を間違えています。よくあるのは、これから払う社会保険料の金額だけを見て「高い」と感じるパターンです。比較すべき相手は、いま払っている国民健康保険料と国民年金保険料です。国民健康保険料は所得が上がるほど重くなり、課税所得が700万円、800万円と伸びていくと、世帯によっては年80万円を超えることもあります。差額は、想像されているほど大きくありません。

家族がいる方ほど、法人が有利になる

決定的な違いは扶養の扱いです。国民健康保険は世帯の人数分だけ保険料がかかります。奥さまとお子さん2人がいれば、その4人分です。一方、法人が入る健康保険は、被扶養者が何人いても保険料は変わりません。ご家族が多い方ほど、法人化で逆転しやすくなります。「保険料が倍になる」と思い込んだまま相談に来られて、実際に並べてみると差が10万円台だった、というのはよくあることです。

払った分は、保障として戻ってくる

厚生年金は国民年金に上乗せされ、将来の受給額に反映されます。国民年金は満額でも年80万円台です。ここに厚生年金を20年、30年と積み上げるかどうかで、老後の水準はまったく変わります。病気やけがで働けなくなったときの傷病手当金も、国民健康保険にはなく、健康保険にはあります。ひとり社長にとっては、実質的な就業不能保険を持つのと同じことです。

しかも保険料の水準は、役員報酬の決め方でコントロールできます。会社に利益を残すか、報酬として受け取るか。この配分を自分で設計できること自体が、個人事業にはない法人の強みです。会社が負担した保険料は全額が損金になり、その分だけ法人の利益も圧縮されます。

「社会保険料が増えるから法人化しない」という判断は、増える分だけを見て、減る税金と、増える保障と、家族の分の保険料を見ていない判断です。全部を並べたうえで見送るなら、それは納得できる結論です。並べる前に諦めてしまうのが、いちばんもったいない。当事務所では、この比較を数字にしてお見せしています。

消費税の免税期間を、どこで使うか

これが、タイミングを1年ずらすだけで数十万円の差になる論点です。個人事業で課税売上高が1,000万円を超えると、その2年後から消費税の課税事業者になります。ところが法人を新しく設立すると、資本金1,000万円未満であれば、原則として設立から2期は消費税が免税です。個人と法人は別人格なので、免税判定がリセットされます。

つまり、個人で消費税を納め始める年の直前に法人化すれば、免税期間を最大限に使えます。ここを知らずに、消費税を2年間払い切ってから法人化される方がいます。もったいない話です。

注意点も二つあります。ひとつは、設立第1期の上半期(特定期間)の課税売上高と給与支払額がいずれも1,000万円を超えると、第2期から課税事業者になること。もうひとつは、インボイス登録をすれば免税期間中でも課税事業者になることです。取引先が事業者中心なら登録を求められる場面が多く、その場合はこのメリットが小さくなります。資本金の設定は消費税だけでなく設立時の税額にも関わるので、資本金はいくらにすべきかの記事も合わせてご覧ください。

お金以外の理由で法人化する人もいる

実際のところ、私が法人化をお勧めするケースの半分近くは、税金以外の理由です。

ひとつは取引です。群馬でも、元請けが個人事業主との直接契約を避ける業界があります。建設業では、法人でないと入れない現場や、法人化を条件に単価を上げてくれる元請けが実際にあります。この場合、税負担が多少増えても、売上の増加が上回ります。

もうひとつは融資です。個人事業でも公庫や制度融資は使えますが、金額が大きくなるほど法人のほうが通りやすい場面が出てきます。設備投資の計画があるなら、投資の前に法人化しておくほうが選択肢が広がります。融資の組み立て方については創業融資・資金調達サポートのページにまとめています。

三つ目は採用です。求人を出したときの反応が、個人事業と法人では違います。特に若い人を採りたい場合、社会保険の有無は応募段階のふるいになります。人を増やす計画があるなら、その前に法人化する意味があります。

群馬の建設業こそ、株式会社にする意味がある

建設業の方から法人化のご相談を受けるとき、私が必ず伺うことがあります。「息子さんに継がせる可能性はありますか」。親子で現場に出ている、あるいはいずれ継がせたいと考えている。そうであれば、法人にするかどうかは節税の話ではなく、事業を渡せるかどうかの話になります。群馬の建設業は親子経営が多く、ここが最大の論点になることが少なくありません。

個人事業には、事業をまるごと渡す仕組みがありません。高所作業車も、工具も、資材置き場の土地も、取引先との契約も、屋号も、一つひとつ名義を変えていくことになります。相続が起きた場面では、それを遺産分割協議と並行して進めます。現場を止めずにこれをやり切るのは、相当な負担です。

建設業許可も同じです。個人事業の許可は事業主本人に紐づいているため、亡くなったときには承継の手続きが必要で、しかも期限が決まっています。法人の許可は法人そのものに帰属するので、代表者が父から子に代わっても許可は途切れません。工事の受注を止めずに代替わりできる。これは建設業にとって決定的な差です。

渡すものが「株式」だけになる

法人であれば、次の世代に渡すものは株式だけです。全部を一度に渡す必要もありません。毎年少しずつ贈与して持ち株を移していけば、相続が起きたときにお父様の手元に残っている財産はその分だけ減っています。自社株の評価は利益が出るほど上がっていくので、株価が上がりきる前に動けるかどうかで、後の相続税がまったく変わります。法人化は、その入口でもあります。

ここで、合同会社ではなく株式会社をお勧めする理由があります。合同会社の持分は、社員が亡くなっても原則として相続人に承継されません。定款にあらかじめ承継の定めを置いていなければ、その社員は退社の扱いとなり、相続人が受け取るのは持分の払戻請求権です。会社に現金がなければ払えず、事業に使うはずだった資金が外に出ていきます。株式会社の株式は、そのまま相続財産として引き継がれます。設立費用は株式会社のほうが十数万円高くなりますが、代替わりまで見込むなら安い差額です。両者の違いは株式会社と合同会社を比べた記事にまとめています。

当事務所は「たかさき相続税・贈与税相談プラザ」として相続の相談窓口も併設しています。設立の設計と、自社株の評価や生前の移転まで、同じ事務所で続けて見られる体制です。10年後20年後の代替わりを前提に会社の形を決めたい方は、設立の段階でその話までしてください。

高崎で、勧めたケースと止めたケース

冒頭の電気工事業の方は、売上1,300万円に対して利益が280万円でした。外注比率が高く、季節による波もある。この段階で固定費を増やすのは得策ではないと考え、私は「利益が600万円を安定して超えたら」とお伝えして、その年は見送りました。ただ、当時中学生だった息子さんがいずれ現場に入る可能性があったので、法人にするなら株式会社で、という方針だけは先に決めておきました。翌々年、元請けからの受注が増えて利益が800万円台に乗ったところで、その通りに株式会社を設立しています。

逆に、その場で法人化をお勧めしたのは、高崎駅前でひとりでシステム開発を請け負っていたエンジニアの方です。売上900万円、経費が少なく利益は680万円。翌年には課税事業者になる見込みで、法人の顧客から「法人と取引したい」と言われていました。三つの条件が揃っていたので、期の途中でしたが早めに動いてもらいました。設立の実費と手順は会社設立費用の記事にまとめてあります。

迷ったときの決め方

ご自身で判断される場合は、次の三つを紙に書いてみてください。

・去年の課税所得はいくらか。今年はそれを超えそうか

・生活費として毎月いくら必要か(役員報酬の下限になります)

・消費税の課税事業者になるのは、いつからか

・この事業を、いずれ誰かに継がせる可能性があるか

この四つが埋まれば、判断の8割は済みます。埋まらない項目があるなら、そこが相談すべき論点です。法人化は一度やると簡単には戻せません。1年早く動くのも、1年遅く動くのも、どちらも数十万円単位で結果が変わります。数字を並べて確かめてから決めてください。

当事務所では、確定申告書の控えをお持ちいただければ、その場で個人と法人の負担を並べた比較表をお作りしています。相談料はいただいていません。私自身の経歴や考え方は代表挨拶のページに書いていますので、依頼先を選ぶ材料にしていただければと思います。

法人化のタイミング、数字で確かめませんか

ミノラス会計事務所では、会社設立サポート創業融資サポートをあわせてご提供しています。法人化すべきか迷っている段階でのご相談を歓迎しています。

TEL 027-386-2807(平日9:00〜18:00)

群馬県高崎市江木町610-10 ミノラスビル3階

公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太