「これ、埋めればいいんですよね」。日本政策金融公庫のホームページから印刷してきた創業計画書を、高崎で外構工事業を始める予定の方が持ってこられました。A3で1枚。項目は8つしかありません。だから簡単に見えます。実際には、この1枚で数百万円の融資が決まります。
私はこれまで創業融資のご支援を続けてきて、いまのところ承認率は9割を超えています。特別な裏技を使っているわけではありません。審査担当者が見ている箇所を知っていて、そこに答えを書いているだけです。今日はその中身をお話しします。
目次
創業計画書は、夢を語る書類ではない
最初にここを共有させてください。創業計画書は、熱意を伝える書類ではありません。「返せるかどうか」を判断してもらうための書類です。
公庫の担当者は、地域の産業を応援したいと本気で思っています。同時に、貸したお金が返ってくるかどうかを判断する立場でもあります。「地域を元気にしたい」「お客様に喜んでもらいたい」という一文だけが並んだ計画書を受け取っても、判断材料がありません。必要なのは、毎月いくら入ってきて、いくた出ていき、いくら返済に回せるのか、という具体です。
熱意が不要という意味ではありません。熱意は面談で伝わります。書類に書くべきは、その熱意を数字に翻訳したものです。
一番見られているのは「経験」の欄
創業計画書の1番目の項目は「創業の動機」、2番目が「経営者の略歴等」です。この2番目が、実は最も重い欄です。
理由は単純で、創業融資には過去の決算書がないからです。会社の実績で判断できない以上、判断材料は本人の経験しかありません。同じ業種で何年やってきたか。どの立場で、何を任されていたか。ここが実質的な信用情報の代わりになります。
「勤務していました」で終わらせない
よくあるのが「〇〇株式会社に10年勤務」の一行で終わっているケースです。これでは何も伝わりません。書くべきなのは、その10年で何を身につけたかです。
・担当していた業務の中身(施工管理、店長として売上管理、仕入交渉 など)
・任されていた規模(担当店舗の年商、部下の人数、扱っていた案件金額)
・持っている資格や許認可
・独立後に取引が見込める、前職時代からの関係先
最後の項目が特に効きます。「前職から引き継げる取引先が3社あり、月商の4割程度は初月から見込める」と書ければ、売上予測の信憑性が一気に上がります。逆に、まったくの未経験業種での創業は、この欄が埋まりません。その場合は自己資金を厚くするか、経験者を役員や従業員として迎えるか、どちらかで補うことになります。
第三者が評価した実績は、必ず書く
冒頭の外構工事業の方には、エクステリアプランナーとしてメーカー主催のデザインコンテストで受賞された経歴がありました。ご本人は「関係ないと思って」書いていませんでした。これはもったいない。自己申告の腕前は検証できませんが、第三者が選んだという事実は検証できます。審査担当者にとっては、技術力を裏づける数少ない客観材料です。
同じように、前職での表彰、担当した現場が施工事例として掲載された実績、取得した施工管理技士などの資格も同じ役割を果たします。謙遜して省略する方が多い欄ですが、ここは事実として淡々と並べてください。
自己資金は、金額より「貯め方」を見られている
自己資金は、創業計画書の数字の中で唯一、すでに結果が出ているものです。だから重く見られます。
ここで大事なのは、金額そのものより出どころです。担当者は通帳のコピーを見て、そのお金がどう貯まったかを確認します。毎月給料から少しずつ積み上がっている通帳は、それだけで計画性の証明になります。「この人は決めたことを実行できる」という判断につながるからです。
逆に、申込みの直前に大きな金額が一度に入金されている通帳は、必ず出どころを聞かれます。親族からの援助であれば、贈与なのか借入なのかをはっきりさせてください。借入なら返済義務がある以上、自己資金ではなく負債です。ここを曖昧にしたまま出すと、説明できなかった時点で信用を失います。援助を受けること自体は問題ありません。隠すことが問題です。
金額の目安としては、必要資金の3分の1程度あると話が進めやすくなります。制度上の下限とは別の、実務上の感覚です。足りない場合の組み立て方は創業融資サポートのページでも触れています。
売上予測は、単価×客数×日数まで分解する
計画書で最も差がつくのがここです。「月商150万円」とだけ書かれた計画書と、その150万円がどう積み上がるかを分解した計画書では、審査担当者の受け取り方がまったく違います。
冒頭の外構工事業の方であれば、こう分解します。1件あたりの平均受注額120万円、月の受注件数3件で月商360万円。ここまで書いて初めて、担当者は検証できます。「月3件を一人で施工して回せるのか」「その単価は群馬の相場と合っているか」と。
検証できる数字は、多少強気でも通ります。検証できない数字は、控えめでも疑われます。ここが根本的な違いです。
根拠は外から持ってくる
分解した数字の根拠は、できるだけ自分の外から持ってきてください。前職での実績値がいちばん強い材料です。それがなければ、業界団体が出している平均値や、公庫が公表している業種別の経営指標が使えます。近隣の同業の価格帯を実際に調べた、というのも立派な根拠です。
そして、軌道に乗るまでの時間を織り込んでください。初月から計画値を満たす前提は、それだけで現実味を失います。3か月目までは6割、半年で8割、1年で計画値、といった立ち上がりを書いたほうが、かえって信用されます。
「その仕事は、どこから来るのか」に答える
単価と件数を分解しても、まだ足りません。担当者が次に考えるのは「その3件は、どこから来るのか」です。ここに答えのない計画書は、数字がいくら緻密でも通りません。
外構工事業の方の場合、答えが二つありました。ひとつは人のつながりです。前職時代からのお施主様、そして継続的に仕事を回してくれるハウスメーカーと工務店の担当者。独立後も声をかけると言ってくれている先が具体的にありました。計画書には社名を伏せた形で「取引が見込める工務店3社、ハウスメーカー1社」と件数で書き、面談では実名でお話しいただきました。職人の手配先も同様です。受注できても施工できなければ売上にならないので、協力業者を確保できていることは立派な根拠になります。
もうひとつが集客です。この方は前職が、建設業では珍しく自社サイトのSEOに力を入れている会社で、ご本人がその担当をされていました。どんなキーワードで問い合わせが入るのか、反響が受注につながるまでの歩留まりはどれくらいか、実数で把握されていた。これは強い材料です。「独立後もホームページから集客します」と書くだけなら誰でもできますが、前職で自分が回していた数字を出せる人は限られます。紹介と自社集客の二本立てで、月3件という数字に届く道筋を示せました。
資金繰りは、黒字でも足りなくなる
利益が出ているのにお金が足りなくなる。創業期に本当によく起きることです。計画書の段階で、ここを見込んでいるかどうかが問われます。
売上の入金が翌月末、仕入の支払いが当月末という取引条件であれば、その1か月分の資金を自分で立て替えることになります。売上が伸びるほど立て替える金額も増えるので、成長している会社ほど現金が苦しくなります。建設業のように、材料費と外注費を先に払って、工事完了後に入金される業種では特に顕著です。
だから、必要資金には設備資金だけでなく運転資金を必ず入れてください。目安として、固定費の3か月から6か月分です。「借入は少ないほうがいい」と考えて運転資金を削る方がいますが、途中で資金が尽きて追加融資を申し込むほうが、はるかに条件が悪くなります。最初にまとめて借りるほうが、金利も手間も有利です。
落ちる計画書の共通点
これまで拝見してきた中で、通らない計画書にははっきりした傾向があります。
ひとつは、数字の辻褄が合っていないものです。必要資金の合計と調達額の合計が一致していない。売上計画と資金繰り表の数字が違う。この種の不一致は、内容以前の問題として信用を落とします。提出前に、必ず全部の数字を突き合わせてください。
もうひとつは、経費が甘いものです。特に抜けやすいのが、社会保険料、自分の生活費、そして税金です。役員報酬を月30万円と置くなら、そこから所得税・住民税・社会保険料が引かれた後の手取りで生活できるかを確認してください。生活が回らない計画は、いずれ会社のお金に手をつけることになります。担当者はそれを知っています。
三つ目は、他社のひな形をそのまま使っているものです。同じ表現の計画書は、担当者から見ればすぐに分かります。中身が自分の言葉になっていない計画書は、面談で必ず崩れます。
公庫が通ると、その次がある
創業計画書を作る目的は、目の前の融資を通すことだけではありません。冒頭の外構工事業の方は、公庫の創業融資が実行された後、地元の信用金庫からも融資を受けられました。この流れは、意識して作れます。
創業したばかりの会社にとって、民間の金融機関の扉は重いものです。決算書が一期もないのですから、判断材料がありません。ところが公庫の融資が実行され、それを遅れなく返済している事実が積み上がると、状況が変わります。返済実績は、決算書の代わりになる信用情報だからです。半年から一年、きちんと返し続けた実績があれば、信用金庫との話は始められます。
このとき効いてくるのが、最初に作った創業計画書です。計画に対して実績がどうだったかを説明できる会社は、それだけで評価されます。計画どおりに進んでいるなら、その計画の精度が証明されたことになる。計画を下回っていても、原因と対策を説明できれば、数字を管理できている会社だと見てもらえます。何も作らずに始めた会社には、この比較ができません。
だから私は、創業計画書は提出したら終わりの書類ではないとお伝えしています。毎月の試算表と並べて、計画と実績のずれを見る。それが次の資金調達の材料になります。群馬銀行、東和銀行、しののめ信用金庫といった地元の金融機関との関係は、この積み重ねで作るものです。
書き上げたあとにやること
計画書ができたら、提出する前に二つやってください。
ひとつは、自分で声に出して説明してみることです。面談では、この計画書について1時間近く質問されます。書いた本人が説明できない箇所があれば、そこが弱点です。数字の根拠を聞かれて答えられるか、一人で試してください。
もうひとつは、公庫以外の選択肢を確認することです。高崎市には創業者向けの利子補給制度があり、群馬県の制度融資と組み合わせられる場合があります。公庫に申し込む前に市の商工振興課で確認するだけで、実質的な負担が変わることがあります。この順番については創業融資はどこで借りるべきかの記事に詳しく書きました。
当事務所では、創業計画書を一緒に作るところからご支援しています。ひな形をお渡しして終わりではなく、売上の根拠を一緒に組み立て、面談の想定問答まで詰めます。会社設立から融資、その後の顧問まで通してお引き受けできる体制です。私の経歴や考え方は代表挨拶のページに書いていますので、依頼先を選ぶ材料にしてください。















