「理由を聞いたんですけど、教えてもらえませんでした」
高崎市内でバーを開こうとしていた方が、公庫からの通知を持って来られました。希望額700万円。結果は謝絶、つまり融資しないという判断です。
通知には理由が書かれていません。電話で聞いても、総合的な判断です、としか返ってこない。何が悪かったのか分からないまま、次にどうすればいいかも分からない。この状態でご相談に来られる方は少なくありません。
この方の場合、話を1時間ほど聞いて、心当たりが2つ出てきました。ひとつは、カードローンの残高を申込書に書いていなかったこと。もうひとつは、月商の根拠を聞かれて答えられなかったことです。バーテンダーとして10年の経験はある方でしたが、自分で店を回した経験はありませんでした。
落ちたこと自体は、終わりではありません。ただ、落ちた直後にすぐ出し直すのは、いちばんまずい動き方です。
今回は、創業融資に落ちたときに何を確認し、どれくらい期間を空けて、その間に何をするかを書きます。
目次
1. 落ちた理由は教えてもらえない
まず前提として、金融機関は謝絶の理由を明示しません。公庫も同じです。何度聞いても、具体的な項目は出てきません。
意地悪をしているわけではありません。審査の判断基準を開示すれば、そこに合わせた申込書が作られてしまうからです。だから理由は言わない。これは制度の設計としてそうなっています。
つまり、理由は自分で推定するしかありません。ただ、これは思っているほど難しくありません。創業融資が通らない理由は、そこまで多様ではないからです。
ご相談に来られたときは、申込書の控え、創業計画書、提出した通帳、面談で聞かれた質問。この4つを並べて一緒に見ます。面談で担当者が何を繰り返し聞いてきたか。そこに答えが残っていることが多い。
冒頭のバーの方も、面談で「他に借入はありませんか」と2回聞かれたと言っていました。2回聞かれたということは、担当者の手元にはすでに信用情報の照会結果があったということです。
2. 落ちる理由は、だいたい4つに絞れる
信用情報と税金の滞納
いちばん重く、いちばん覆せないのがここです。過去のクレジットカードやローンの延滞、債務整理の記録。公庫は申込時に信用情報を照会します。書いていない借入は必ず出てきます。
自分の記録がどうなっているかは、自分で確認できます。CICは主にクレジットカードや信販の情報を、全国銀行個人信用情報センターは銀行系の情報を扱っています。どちらも本人開示の手続きがあり、数百円から千円程度で取得できます。心当たりがあるなら、再申請の前に必ず取ってください。
住民税や所得税、社会保険料の滞納も同じ扱いです。分割で納付中なら、その納付計画書を出せば説明はできます。ただ、滞納したまま申し込むと、まず通りません。
自己資金の見え方
金額そのものより、貯まり方です。申込直前の一括入金があると、必ず出所を聞かれます。ここで説明が詰まると、通帳の話が人物の話に変わります。詳しくは自己資金はどう見られるか|見せ金が一発でバレる理由に書きました。
経験と事業内容が噛み合っていない
やろうとしている事業について、その人が経験を持っているか。ここは思っている以上に見られます。同業での勤務経験が数年あるかどうかで、計画の説得力がまるで変わります。
ここで見落とされやすいのが、技術の経験と経営の経験は別物だという点です。10年カウンターに立っていても、原価率を管理した経験、家賃と人件費を含めて損益を組んだ経験がなければ、担当者はそこを突いてきます。「いけると思います」ではなく、紙で示せるかどうかです。
計画の数字に根拠がない
売上予測の積み上げ方が説明できない。経費の見積もりが甘い。借入額の根拠が「これくらいあれば安心だから」になっている。このパターンです。
面談で数字の根拠を聞かれたときに答えられなかった記憶があるなら、ここが原因の可能性が高い。何を聞かれるかは創業融資の面談対策|審査に落ちる人の共通点にまとめています。
3. 再申請まで、どれくらい空けるべきか
目安は半年です。事情によっては1年見ることもあります。
制度として「半年空けなければ申し込めない」という決まりがあるわけではありません。翌日に出し直すこともできます。ただ、公庫には申込の履歴が残ります。前回と同じ内容で出せば、同じ結果になります。
半年という数字には理由があります。通帳に半年分の新しい記録を作れるからです。毎月コツコツ積み立てた線が半年分あれば、自己資金の見え方が変わります。滞納があった場合も、半年分の納付実績を示せます。
逆に、1週間で直せる話なら、半年待つ必要はありません。たとえば、書類の不備や記載漏れだけが原因と特定できているなら、1〜2か月でも出し直す価値があります。空ける期間は「何を直すか」から決まります。
問題は、開業予定日が動かせない場合です。物件の契約が決まっている、退職日が決まっている。この場合は半年待てません。そのときは、公庫以外の道を先に検討します。
4. 空けた期間に何をするか
ただ待つだけでは、半年後も結果は変わりません。やることは3つあります。
通帳に新しい記録を作る
毎月同じ日に、決めた額を積み立てます。5万円でも3万円でも構いません。金額より、途切れないことです。半年分の規則正しい入金の線は、それだけで説明の材料になります。
借入を整理する
カードローンやリボ払いの残高があるなら、この半年で減らします。完済できるなら完済してください。返済実績が積み上がること自体が、信用情報の上ではプラスに働きます。
計画の数字を裏づけで固める
半年あれば、根拠のない数字を根拠のある数字に組み替えられます。冒頭のバーの方は、この期間に売上予測を作り直しました。席数14席、想定回転率は平日1.0回転・金土1.5回転、客単価4,500円。営業日を平日22日・金土8日として積み上げると、月商は約214万円になります。この数字に原価率と家賃、人件費を乗せて損益を固めました。あわせて、知人の店に3か月ほど入り、仕入と在庫の管理を実地で覚えています。
再申請では、この積み上げを計画書に組み込みました。「だいたい月250万円は見込めます」が「14席×回転率×客単価で月214万円です」に変わっただけですが、書類の説得力は別物です。当初の見込みより下がりましたが、下がった数字のほうが通ります。カードローンについても残高を完済し、今度は申込書に借入なしと正直に書けました。
結果は500万円で実行。希望額から200万円下がったので、カウンターの造作を抑え、什器の一部を中古に切り替えて開業しました。
5. 公庫だけが選択肢ではない
公庫に落ちたら創業融資は終わり、と思い込んでいる方がいます。そんなことはありません。
群馬県には、信用保証協会の保証を付けて金融機関から借りる制度融資があります。窓口は群馬銀行、東和銀行、しののめ信用金庫といった地元の金融機関です。審査する主体が公庫とは違うので、公庫で通らなかった案件が通ることもあります。逆もあります。
制度融資は、市区町村が利子や保証料の一部を補助している場合があります。高崎市にも創業者向けの制度がありますが、内容は年度ごとに変わるので、高崎市役所の商工振興課に確認してください。詳しくは創業融資はどこで借りるべきかにまとめています。
ただし、制度融資は公庫より時間がかかります。金融機関の審査と保証協会の審査を順に通るので、申込から実行まで1か月半から2か月を見ておいてください。開業予定日が近い方は、この日数を先に確認する必要があります。
それから、借入額そのものを見直す道もあります。700万円が通らないなら500万円ではどうか。設備の一部を中古やリースに替えれば、必要額は下がります。借りる額が下がれば、自己資金の比率は自動的に上がります。
6. 落ちた後にやってはいけないこと
最後に3つ書いておきます。
ひとつ、同じ内容で別の支店に出し直すこと。公庫の申込情報は支店をまたいで共有されています。管轄も決まっています。意味がないどころか、印象を悪くします。
ふたつ、数字を作り直すこと。落ちた計画書の売上予測を上げ、自己資金の欄を書き換えて再提出する。前回の申込内容は残っているので、何を書き換えたかは分かります。ここで失うのは、その1回ではなく、その先の可能性です。
みっつ、ノンバンクや事業者ローンで穴を埋めること。金利が跳ね上がるうえ、その借入が信用情報に載ります。次の再申請がさらに遠のきます。
融資に落ちたときに大事なのは、原因を特定して直すことです。特定せずに出し直すのは、同じドアをもう一度叩いているだけになります。
私は面談に同席する立場で創業の現場を見てきました。落ちた案件を立て直して次で通した経験も、それなりにあります。落ちた申込書と計画書を見せていただければ、どこが引っかかったかの当たりはつけられます。一人で抱えずに、一度持ってきてください。
私がどういう考えで創業支援に関わっているかは、代表挨拶をご覧ください。
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