「赤字だったので、申告しなくていいと思っていました」
店舗の内装工事をしている会社の社長から、そう言われました。設立して3期目。1期目も2期目も赤字で、税金を払う必要がないから申告もいらない、という理解だったそうです。3期目に大きな元請との取引が決まり、建設業の許可を取るよう求められて、そこで初めて決算書がないことに気づいて相談に来られました。
結論から言うと、法人は赤字でも申告が必要です。そして、赤字の年に申告しなかったことのツケは、黒字になった年に回ってきます。本来なら利益と相殺できたはずの赤字が、使えなくなることがあるからです。
個人の無申告とは、失うものの種類が違います。今回は、法人が申告しないと何が起きるのかを、この会社のケースに沿って書きます。群馬県高崎市で会計事務所をやっている立場からの話です。
目次
法人は、赤字でも申告が必要
個人の場合は、所得が一定以下なら確定申告をしなくてよいことがあります。法人にはこの考え方がありません。事業年度が終われば、利益が出ていても赤字でも、原則として決算から2か月以内に申告書を提出する必要があります。
「税金がゼロなら出さなくても同じ」と思われがちですが、法人の申告書は税額を計算するためだけのものではありません。その年の赤字を記録に残し、翌期以降に使える状態にしておく役割があります。出さなければ、その赤字は公式には存在しないことになります。
設立したばかりの会社は、1期目、2期目が赤字になるのが普通です。だからこそ、この時期の申告が一番大事になります。
赤字でもかかる税金がある
法人には、利益に関係なくかかる税金があります。法人住民税の均等割です。県と市町村それぞれに納めるもので、資本金や従業員数に応じて金額が決まります。小さな会社でも、年に7万円程度はかかるのが一般的です。
申告をしていない会社は、この均等割も納めていないことになります。無申告の期間が長いと、年数分の均等割に延滞金が乗った状態で請求が来ます。冒頭の会社も、2期分の均等割が未納のままでした。
加えて、法人税そのものにも個人と同じように無申告加算税と延滞税の仕組みがあります。黒字の年を申告せずにいれば、税務署から連絡が来る前に出すかどうかで上乗せの率が変わるのも同じです。
2期続けると、青色申告が取り消される
法人を設立すると、ほとんどの場合、青色申告の承認申請を一緒に出します。設立時の届出一式に含まれているので、社長本人は出した覚えがないこともあります。
青色申告の会社には、いくつかの特典があります。中でも大きいのが、赤字を翌期以降に繰り越して、将来の利益と相殺できることです。
ところが、2期続けて期限までに申告書を出さないと、青色申告の承認が取り消される対象になります。これは税務署が判断して行う処分で、実際に取消の通知が届くと、繰越の特典が使えなくなります。取り消された後は、一定の期間、再び承認を受けることもできません。
つまり、赤字の年を2期続けて放置すると、その赤字を将来使う権利ごと失うことがある。赤字だから申告しなくていい、という理解とはまったく逆の結果になります。
繰り越せるはずだった赤字が使えなくなる
冒頭の会社の話です。飲食店や美容室などの店舗内装を請け負う株式会社で、社長と職人2名。職人として独立した社長が、仕事の幅を広げるために法人を作った形です。1期目は車両と工具、職人の確保に先行投資をして赤字。2期目も元請の開拓が追いつかず、小さな現場が中心で赤字でした。
2期とも申告をしていなかったところ、税務署から青色申告の承認を取り消す旨の通知が届きました。社長は封書の意味が分からず、そのまま3期目に入っています。3期目は店舗チェーンの改装を請け負う元請との取引が始まり、利益が出る見込みでした。
1期目と2期目の申告書を期限後に作成して提出しましたが、取消の影響で、繰り越せるはずだった赤字のうち480万円が使えなくなりました。3期目の利益と相殺できていれば、その分の税金はかからなかったはずです。法人税や住民税などを合わせると、税額で100万円を超える差になります。
1期目、2期目の申告書は、赤字なので税額ゼロの書類です。作るのに大きな手間はかかりません。それを出さなかったことが、黒字の年に100万円の差になって返ってきたことになります。
加えて、2期分の均等割とその延滞金、3期目の納税。社長にとっては、元請との取引が始まって資金が必要な時期に、想定していなかった支払いが重なる形になりました。材料の立替えや職人への支払いが先に出ていく内装工事では、このタイミングの資金繰りが一番苦しくなります。
税金以外に止まるもの
法人の無申告は、税金の問題だけで終わりません。会社として外とやりとりする場面が止まります。
融資。金融機関は、決算書と申告書、納税の証明を見て判断します。申告していない会社には、そもそも審査の材料がありません。黒字になって設備投資をしたい、運転資金を借りたいというタイミングで動けなくなります。
許認可。建設業では、一定規模以上の工事を請け負うには許可が必要で、申請には決算書や納税の証明を添付します。許可を取った後も、毎期の決算内容を届け出ることが維持や更新の条件です。申告が止まっている会社は、許可を取ることも続けることもできません。公共工事の入札に必要な審査も、決算が前提です。
取引。新しい取引先との契約や、大手との口座開設で、決算書の提出を求められることがあります。出せないと、それだけで取引が始まらないことがあります。
冒頭の会社がまさにこれでした。元請からは、次の年度から規模の大きい現場を任せたいので、それまでに建設業の許可を取ってほしいと言われていた。ところが許可の申請に添える決算書がない。税金の問題として気づいたのではなく、仕事を広げようとして初めて止まっていることに気づいたことになります。1期目と2期目の申告を済ませ、3期目の決算を待って許可の申請に進みました。
事業をしていない会社はどうなるか
「もう事業はしていない、会社だけ残っている」というご相談もあります。
法人は、解散の手続きをしない限り存在し続けます。事業をしていなくても、会社がある以上、原則として申告の義務は残ります。休業していることを税務署や県・市町村に届け出る手続きがあり、自治体によっては事業の実態がなければ均等割がかからない扱いになることもあります。ただ、届け出ていなければそうした扱いも受けられません。
また、株式会社は長期間登記に動きがないと、法務局の手続きで解散したものとみなされることがあります。放置した会社は、税務と登記の両方で整理が必要になります。
使っていない会社は、休業の届出をするか、解散と清算まで進めるかを決めてください。どちらも放置よりはるかに負担が軽く済みます。
今から出すときの順番
法人の無申告を整理するときは、法人税だけを見ると漏れが出ます。次の順番で確認します。
1. 税務署から何が届いているかを確認する。青色申告の取消の通知が来ているかどうかで、繰り越せる赤字の扱いが変わります。未開封の封書があれば、そのまま持ってきてください。
2. 期ごとの決算を組み直す。通帳と請求書から、1期ずつ売上と経費を確定させます。赤字の期も、税額ゼロの申告書として出します。
3. 源泉所得税と消費税を確認する。役員報酬や給与を払っていれば、源泉所得税の納付が必要だったはずです。消費税も、資本金の額や売上によっては設立当初から対象になっていることがあります。
4. 社長個人の申告を確認する。役員報酬を受け取っていれば、社長個人の所得税にも影響があります。会社と個人は別々に確認が必要です。
5. 許認可の期限を確認する。建設業のように決算の届出が必要な業種は、申告を済ませたあとに役所への手続きが続きます。許可の取得や更新の予定があるなら、そこから逆算して申告の順番を決めます。
赤字の期の申告書を出すことは、将来の自分を守ることです。繰り越せる赤字には期限がありますが、税務調査で何年さかのぼるかでも書いたとおり、赤字の扱いは長く効いてきます。個人の無申告を含めた全体の進め方は無申告のまま何年も経っている場合の手順にまとめてあります。















