税務調査にAIが入った|選ばれるのは不正な会社ではなく説明のつかない会社【群馬・高崎】

「うちみたいな小さい会社にも、調査は来るんでしょうか」

高崎市内で塗装工事をしている社長から、そう聞かれました。設立から6年、社員は4名。不正なことは何もしていないという自負があり、それでも税務署から書類が届いて不安になった、というご相談でした。

結論から言えば、調査の対象になるかどうかは会社の大きさでは決まりません。国税庁は令和6事務年度の調査事績の中で、AIも活用しながら調査必要度の高い法人を抽出したと明記しています。選ばれる基準が、担当者の経験から、データ分析へ移っている。そして2026年9月、その土台になるシステムが25年ぶりに入れ替わります。

調査の件数は減り、1件あたりの追徴税額は過去最高になった

国税庁が公表した令和6事務年度の法人税等の調査事績を見ると、変化がはっきり出ています。

実地調査の件数 5万4千件(前年比7.4%減)

申告漏れ所得金額 8,198億円(15.8%減)

追徴税額 3,407億円(6.6%増)

1件あたりの追徴税額 634万円(15.4%増)

調査に行く件数は減っているのに、取れている税金は増えている。しかも追徴税額の総額は直近10年で最も高い水準です。前年度の令和5事務年度は5万9千件で3,197億円、1件あたり550万円ほどでしたから、1年で1件あたり80万円以上増えたことになります。

数字が意味しているのは、外れが減ったということです。調査に入ったけれど何も出てこなかった、という空振りが減っている。人手を減らしながら成果を上げる方法として、選定の精度を上げるところに投資している。

2026年9月、国税庁の基幹システムが入れ替わる

国税庁には、申告や納税のデータを一元的に管理するKSK(国税総合管理)システムがあります。1990年代から使われてきたもので、これが2026年9月に次世代のシステムへ全面的に刷新されます。基幹システムの入れ替えとしては約25年ぶりです。

実務上の変化として想定されているのは、税目をまたいだデータの結び付きが強くなることです。これまでは法人税、消費税、所得税、相続税で担当する部署が分かれ、情報の連携が弱い部分がありました。同じ人物と会社のデータが横につながると、法人の決算と社長個人の申告を突き合わせるような見方が容易になります。

もうひとつが、内部事務の集約です。申告内容の確認といった作業は業務センターに集められています。税務署ではなく聞き慣れない部署から電話や文書が来て驚いた、という話は当事務所でも聞くようになりました。事務を集約して浮いた人員は、実地調査や滞納整理といった外に出る仕事へ回ります。

塗装工事の会社に届いた1通の文書

冒頭の社長に届いていたのは、調査の事前通知ではありませんでした。申告内容について確認したい事項がある、という趣旨の文書です。

決算書を見せてもらうと、思い当たる点がありました。前期は売上が前年の1.4倍に伸びています。分譲マンションの大規模修繕で外壁塗装を1棟まるごと受注したためです。ところが同じ期の粗利率は10ポイント近く下がっていました。足場の費用が大きく、自社の職人だけでは回らず外注に出した比率が上がったこと、それに塗料が値上がりしたことが重なっています。

社長にとっては当たり前の説明でも、決算書の数字だけを見れば別の絵になります。売上が伸びたのに利益率が落ちた会社は、売上の一部を計上していないか、原価を水増ししているように見える。何も悪いことをしていなくても、変化の理由が書類のどこにも残っていなければ、確認したくなる対象です。

工事ごとの粗利の一覧と、塗料の仕入単価の推移、外注先と足場業者への支払明細を用意して回答しました。実地調査には至っていません。

見られているのは不正ではなく、説明のつかない変化

同業他社と比べられる

申告書には業種のコードが入ります。同じ業種で同じくらいの規模の会社が、全国にどれだけあるかを国税庁は把握しています。粗利率、人件費率、外注費率、役員報酬の水準。どの数字も、同業の分布のどこに位置するかで見られます。

平均から外れていることが悪いわけではありません。外れている会社には外れているだけの理由があるはずで、その理由が説明できるかどうかが分かれ目になります。

自社の過去と比べられる

もうひとつが時系列です。毎年同じような数字で推移していた会社が、ある年だけ大きく動く。ここに目が行きます。この塗装工事の会社が引っかかったのもこちらでした。

期末に急に増える経費、特定の月だけ跳ねる外注費、決算間際の大きな仕入。年度をまたぐ売上の計上時期も同じです。工事が3月に終わったのに請求書を4月に回して翌期の売上にすると、完成の実態と計上時期がずれる。故意でなくても、資料と突き合わせれば見つかります。

実地調査の前に「簡易な接触」がある

税務署の接触は、調査官が会社に来るものだけではありません。国税庁は文書や電話による接触を「簡易な接触」として集計していて、令和6事務年度は8万5千件、前年から13.4%増えています。追徴税額は265億円。実地調査の5万4千件より件数が多い。

申告内容に誤りがありそうな会社に対して、自分で見直してくださいと促す形です。実地調査より手間がかからないので、対象を広げやすい。件数が増えているのは、選定の精度が上がったことと表裏の関係にあります。

こうした文書が届いたとき、放置するのがいちばん良くありません。回答がなければ次の段階に進みます。逆に、根拠のある資料を添えて回答すれば、そこで終わることが多い。届いた時点で顧問税理士に連絡してください。連絡先が不審に思える場合は、文書に書かれた部署名と税務署の代表番号を確認してから折り返すことをお勧めします。

決算のときに、変動の理由を書き残す

対策として当事務所がやっているのは、大げさなことではありません。決算のときに、前期から大きく動いた科目について理由を書いて残しておく。それだけです。

売上が伸びた、あるいは落ちた理由と、その根拠になる現場や取引先

粗利率が動いた理由。材料単価、外注比率、工事の種類や規模の構成

特定の科目が跳ねた理由と、対応する請求書や契約書の所在

役員報酬や借入を変えた場合はその経緯

1年経つと、社長本人も理由を忘れます。3年前の期末に外注費が増えた理由を、聞かれてすぐに答えられる方はまずいません。書いてあれば、確認の文書が来ても数日で回答できる。実地調査になっても、初日の質問の多くはここで片が付きます。

決算書は税務署だけが読むものではありません。金融機関も同じ数字を見ています。変動の理由を整理しておくことは、融資の場面でもそのまま使えます。決算書がどう読まれるかは法人成りと信用力|500万円の相談が150万円になった理由に書きました。

重点的に見られている分野もある

国税庁は重点課題として、消費税の還付申告を行う法人、海外取引のある法人、そして無申告の法人を挙げています。還付申告をした法人への実地調査は令和6事務年度で4,802件でした。

設立したばかりの会社で設備投資が大きく、消費税の還付を受ける場合はここに入ります。本則課税を選んで還付を受ける判断そのものは正しくても、資料は揃えておいてください。消費税の計算方式の選び方は法人成りと消費税|設立が1か月ずれると48万円変わるで扱っています。

業種別の不正発見割合も公表されていて、バー・クラブが62.3%、その他の飲食が45.2%、外国料理が40.2%と続きます。現金でのやり取りが多く、記録が残りにくい業種ほど高くなる傾向です。裏を返せば、記録が残る形で商売をしている会社は、それだけで疑われにくい。振込と電子決済で完結する取引を増やし、クラウド会計に取り込んでおくことは、それ自体が説明の材料になります。

AIが入って厳しくなった、という言い方をよく見ます。実際に起きているのは、見逃してもらえる余地が減ったことと、説明の準備をしている会社とそうでない会社の差が開いたことです。設立後に出す届出を含め、最初の1年の作り方が後々まで効いてきます。何を出すのかは会社設立後の届出一覧|青色申告を出し忘れて80万円損をした話にまとめてあります。

税務調査と決算のご相談

ミノラス会計事務所では、決算のたびに変動要因を整理して記録に残す形で顧問業務を行っています。税務署から確認の文書が届いた場合の対応、実地調査の立会いもお引き受けします。公認会計士として上場企業の監査に携わってきた経験から、数字の裏付けをどう用意するかをお伝えできます。

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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太