600万円の工事を修繕費で落とした|税務調査で「資本的支出」に直されると、いくら戻すことになるか

「工場の屋根と外壁をやり直して600万円かかった。古くなったのを直しただけだから、全部修繕費でいいですよね」

建物や設備の工事を「直しただけ」として全額その期の経費にする。この処理は、税務調査で最も金額が大きく動く論点の一つです。600万円が全額経費になるか、15年に分けて少しずつ経費になるかで、その期の税金が100万円単位で変わるからです。

修繕費と資本的支出の分かれ目はどこか、直されるといくら戻すのか、調査官は何を見るのか、工事の前に何を残しておけばよいのかを書きます。

「元に戻す」なら修繕費、「良くなる」なら資本的支出

分かれ目は、工事の金額ではなく中身です。壊れたところ、傷んだところを元の状態に戻す工事は修繕費で、払った期に全額が経費になります。元の状態より良くする、長く使えるようにする、別の用途に変える工事は資本的支出で、建物や設備の価値として帳簿に載せ、何年かに分けて経費にします。

同じ「屋根の工事」でも、両方あります。雨漏りしている部分の板金を張り替えるのは修繕費です。屋根全体を葺き替えて、もとのトタンからガルバリウム鋼板に変えるのは、元より良くなっているので資本的支出です。外壁も同じで、剥がれた部分を同じ塗料で塗り直すのは修繕費、全面を断熱塗料に塗り替えるのは資本的支出です。

建物以外でも考え方は同じです。トラックのタイヤ交換は修繕費、エンジンの載せ替えで寿命が延びるなら資本的支出。エアコンの修理は修繕費、能力の大きい機種への交換は資本的支出。事務所の壁紙の張り替えは修繕費、間仕切りを作って部屋を増やすのは資本的支出です。

「古くなったから直した」という社長の感覚は、たいてい修繕費です。ただ、直すときに今より良い材料を使い、今より長持ちするようにするのが普通なので、工事の実態は資本的支出に寄ります。ここが、感覚と税務のずれが出るところです。

600万円が直されると、いくら戻すか

工場の屋根と外壁を600万円で全面的にやり直し、全額を修繕費として経費にした期を例にします。調査で「全額が資本的支出」と判断されると、600万円は建物の価値として帳簿に載せ直され、15年で分けて経費にする扱いになります。その期の経費は、期首に工事をしていても40万円です。

経費にできる額が600万円から40万円に減るので、利益が560万円増えます。追加の税金は、法人税と地方税を合わせて概算で140万〜190万円。会社の利益の水準で変わります。これに過少申告加算税が1割乗って14万〜19万円、さらに申告期限からの延滞税がつきます。

減った経費の560万円は、消えるわけではありません。翌期以降、毎年40万円ずつ14年かけて経費になります。長い目で見れば税金の総額は同じですが、その期に一度に払う追加の税金と、加算税と延滞税は戻りません。在庫の計上もれと同じ構造で、そちらは期末の在庫を数えていないの記事に書いています。

実際の調査では、全額が資本的支出と判断されることは多くありません。600万円のうち、傷んだ部分の補修にあたる200万円は修繕費、残りの400万円が資本的支出、という分け方になることが普通です。見積書の明細が分かれていれば、この分け方が主張できます。分かれていなければ、調査官の見方で決まります。

調査官は見積書の明細を見ている

修繕費の論点で調査官が最初に求めるのは、工事の見積書と請求書の明細です。「屋根外壁改修工事一式 600万円」と1行で書かれていると、中身が分からないので、工事業者に照会するか、こちらの説明を聞いて判断することになります。

明細があれば、行ごとに見ます。「既存屋根材撤去」「ガルバリウム鋼板葺き」「断熱材新設」「外壁高圧洗浄」「シーリング打ち替え」「外壁塗装」。このうち、撤去と洗浄とシーリングと同等塗料での塗装は修繕費、屋根材の変更と断熱材の新設は資本的支出、という分け方が明細から読めます。

見積書の言葉も見られます。「改修」「新設」「グレードアップ」「増設」と書かれていれば資本的支出を疑われ、「補修」「交換」「修理」「塗り直し」なら修繕費として見やすい。工事業者は税務のことを考えて見積書を書いていないので、言葉だけで決まるわけではありませんが、最初の印象はここで決まります。

もう一つ見られるのが、工事前後の写真です。工事前の状態が傷んでいて、工事後が元に戻っているだけなら修繕費の主張が通りやすい。工事後が明らかに違うものになっていれば、資本的支出です。

迷ったときの目安|20万円・3年・60万円

中身で判断がつかないときのために、金額と周期で決めてよい目安があります。

・一つの工事が20万円未満なら、中身を問わず修繕費にできる

・おおむね3年以内の周期で繰り返している工事なら、修繕費にできる。定期的な塗装や部品交換がこれ

・中身で判断できない工事で、60万円未満か、その資産の取得価額の1割以下なら、修繕費にできる

600万円の工事は、どの目安にも入りません。だから中身で判断するしかなく、明細が要る、という話になります。逆に、年に何回かある数十万円の補修は、目安の範囲に入ることが多く、いちいち悩む必要はありません。

目安に入らない大きな工事で、それでも修繕費と資本的支出の区分がつかないときは、全体の3割を修繕費、7割を資本的支出とする分け方が認められています。明細がなく、写真もなく、説明もつかない、という場合の最後の手段です。

工事の前に残しておくもの

修繕費の論点は、工事が終わってからでは手の打ちようがありません。残すべきものは、工事の前と最中にしか作れないからです。

・工事前の写真。どこがどう傷んでいたか。雨漏りの跡、剥がれ、錆、ひび

・明細のある見積書。「一式」ではなく、工程ごとに分かれたもの。業者に「明細を分けてください」と頼めば出てきます

・工事の目的を書いたもの。社内のメモで構いません。「雨漏りのため」「取引先からの指摘で」「老朽化で安全上」

・工事後の写真。元に戻っただけか、変わったか

この四つがあれば、600万円の工事でも「この200万円は修繕費、この400万円は資本的支出」と自分から分けて申告できます。自分から分けていれば、調査で直されることはまずなく、加算税もつきません。

顧問税理士は、工事の前に見積書を見るべき

600万円の工事が全額修繕費で申告されている会社では、顧問税理士は請求書の総額だけを見て処理しています。見積書の明細も、工事前の写真も見ていない。「修繕費」という科目で社長から伝えられた通りに入力して、決算を組んでいます。

本来は、工事の前です。社長から「屋根と外壁をやり直す」と聞いた時点で、見積書を見て「ここは修繕費、ここは資本的支出になります。その期の経費はこのくらいです」と伝える。それで社長は、工事の内容を変えるか、時期を変えるか、そのまま進めるかを選べます。資本的支出になる部分が大きいなら、決算直前にやっても節税にはならず、翌期の期首にやったほうが経費になる月数が多い、という判断もできます。決算直前の設備投資の話は決算直前に「利益が出すぎています」と税理士から電話が来るの記事に書いています。

工事が終わって請求書が来てから「これは資本的支出です」と言われるのと、工事の前に言われるのとでは、社長が選べることの幅がまったく違います。工事のたびに見積書を税理士に見せる、という習慣がある会社は、この論点で困りません。調査で見られる全体の流れは税務調査の流れの記事にまとめています。

工事の前に、見積書を一緒に見ます

修繕費になる部分と資本的支出になる部分を工事の前に分けて、その期の経費と税金の見込みをお伝えします。建設業・不動産業の顧問先が多く、工事の明細の読み方には慣れています。今の税理士からの引き継ぎは当事務所が行います。

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ミノラス会計事務所 公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太