経理担当が1人しかいない会社で起きていること|辞める前に、社内に残す仕事と外に出す仕事を分けておく

「経理は○○さんに全部任せているので、私は分からないんです」

社長の口からこの言葉が出る会社は、経理担当が1人です。入金の確認、支払、給与計算、請求書の発行、税理士とのやり取り。全部を1人が持っていて、その人がいる間は何の問題もなく回っている。問題がないように見えるからこそ、社長はその中身を見なくなります。

1人体制の経理は、回っているときは一番効率がよく、止まったときに一番困る形です。何が起きているのか、辞める前に何を分けておくべきかを書きます。

1人体制で起きている4つのこと

経理が1人の会社で、ほぼ共通して起きていることが四つあります。

・やり方がその人の頭の中にしかない。どの口座から何を払うか、どの取引先がいつ締めか、ソフトのどこを触るか。手順書はなく、聞けば分かるが聞かないと分からない

・社長が数字を見なくなる。「聞けば答えてくれる」ので、自分で試算表を開く習慣がなくなり、会社の数字を知っているのが社長ではなく担当者になる

・担当者が休めない。月末の支払と月初の請求が重なる時期は、休むと止まる。長期の休みを取ったことがない経理担当は、1人体制の会社に多い

・誰も確認していない。入力した仕訳も、作った支払一覧も、見ているのは本人だけ。税理士が月次で見ているとしても、個々の支払の中身までは見ていない

どれも、担当者が優秀で真面目であるほど目立ちません。問題が表に出ないので、社長は「うちの経理は大丈夫」と思っています。

支払と承認が同じ人に集まっている危うさ

四つの中で、一番先に手を打つべきなのは「誰も確認していない」です。1人体制では、支払先を決める、金額を決める、振込を実行する、帳簿に記録する、の全部を同じ人がやっています。この状態を、会計の世界では避けるべき形の筆頭にしています。

理由は単純で、間違いも不正も、本人以外には見つけられないからです。振込先を一桁間違えても、同じ請求書を二度払っても、架空の支払先に振り込んでも、記録を作るのが同じ人なら、帳簿の上では整って見えます。

不正の話をすると「うちの担当者に限って」と言われます。私もそう思います。ただ、確認の仕組みは、担当者を疑うために作るものではありません。担当者が「自分以外の誰かが見ている」と知っていることが、本人を守ります。何かあったときに「1人で全部やっていた」という状態は、本人にとっても一番つらい形です。

最低限やることは一つです。振込の実行を、社長か、担当者以外の誰かが承認してから行う。ネットバンキングなら、担当者が振込データを作り、社長が承認ボタンを押す、という設定にできます。これだけで、支払の中身を担当者以外が毎月見る形になります。

辞めたとき、何が止まるか

1人体制の経理担当が辞めると、止まるのは帳簿だけではありません。順番に止まります。

・月末の支払。どこにいくら払うかの一覧が作れない。取引先からの催促で初めて気づく

・月初の請求書。締め日と単価の情報が頭の中にあったので、請求が出せず入金が遅れる

・給与計算。残業や手当の計算方法が引き継がれておらず、支給日に間に合わない

・税理士への資料。何をいつ送っていたかが分からず、月次が止まり、決算に響く

辞めてからの立て直し方は経理担当が辞めたの記事に書きました。この記事はその前の段階、まだ担当者がいる今のうちに何をしておくか、の話です。辞めてから分けるのと、いる間に分けるのとでは、かかる手間が何倍も違います。

2人目を雇う、という解決の限界

1人体制の不安への答えとして、2人目を雇う、という発想があります。それ自体は間違っていませんが、現実には難しいことが多いです。

経理担当1人の人件費は、月給30万円なら社会保険料の会社負担を含めて年に420万円前後です。2人目を同じ条件で雇えば、経理に年840万円。年商1億〜2億の会社で、仕事の量が2人分あるかというと、ありません。1人で回っているのは、仕事量が1人分だからです。2人目を入れると、仕事を分けるのではなく、2人とも半分ずつ暇になります。

それに、群馬で経理の経験者を採用するのは年々難しくなっています。求人を出しても応募がない、来ても経験が合わない、入っても半年で辞める。採用で解決しようとして、1年経っても1人体制のまま、という会社を何社も見ています。

2人目の代わりになるのは、仕事を「社内に残すもの」と「外に出すもの」に分けることです。外に出した分は、人を雇わなくても、担当者が休んでも、辞めても止まりません。

社内に残す仕事と、外に出せる仕事

分け方の基準は、「会社の中にいないとできないか」です。

社内に残すのは、次の四つです。請求書や領収書を集めること。この支払が何のためのものかを知っていること。払ってよいと決めること。書類を保存すること。この四つは、会社の外の人間には代われません。詳しくは経理はどこまで外に出せるかの記事に書いています。

外に出せるのは、それ以外の全部です。帳簿への入力、通帳とカード明細の照合、支払一覧の作成、請求書の作成、給与計算、月次の試算表、税理士とのやり取り。これらは、資料と情報さえ渡れば、社外でできます。

外に出すと、社内に残るのは「集める・知っている・決める・保存する」の四つだけになります。この四つは、経理の経験がなくてもできます。社長本人か、事務の誰かが、週に数時間でこなせる量です。経理担当が1人で抱えていた仕事のうち、本当にその人でなければできなかったのは、この四つのうちの「知っている」の部分だけで、それも社長が本来知っているべきことです。

担当者がいる今のうちに分けておく

分ける作業は、担当者がいる間にやるのが一番楽です。担当者の頭の中にあるやり方を、外に出す側が聞き取りながら引き取れるからです。辞めてからだと、聞く相手がいません。

順番は、まず振込の承認を社長に移す。次に、帳簿の入力と照合を外に出す。それから支払一覧と請求書、給与計算の順です。担当者の仕事は減りますが、なくなるわけではありません。「集める・知っている・決める・保存する」の社内側を担当者が持ち、外に出した部分の窓口になる。担当者が休んでも、外の側は止まりません。

「担当者に失礼ではないか」と気にする社長もいます。私は逆だと思います。1人で全部を抱えて休めない状態を続けさせることのほうが、負担です。分けた結果、担当者が休みを取れるようになった、という話はよく聞きます。

社長が数字を見られる状態に戻る、というのも分けることの効果です。外に出した側から月次の試算表が決まった日に届き、社長が自分で開く。「○○さんに聞かないと分からない」から、「自分で見れば分かる」に変わります。決算書の数字を自分で読めない状態がどこから来ているかは決算書の説明がない税理士の記事に書いています。

経理担当がいる今のうちに、社内と社外に分けます

担当者から今のやり方を聞き取り、帳簿入力・照合・支払一覧・請求書・給与計算を当事務所側で引き取ります。社内に残るのは、集める・決める・保存するの3つと、振込の承認だけです。顧問税理士の変更と合わせて進めることもできます。

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ミノラス会計事務所 公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太