税理士に無申告を相談したら、税務署に伝わるのか|守秘義務の範囲と、断られるケース

「これ、先生から税務署に言われたりしませんか」

電話の途中で、急に声が小さくなりました。訪問美容をされている個人の方です。3年ほど申告をしていない、という内容のご相談でした。最初の電話ではお名前も名乗られませんでした。

無申告のご相談で、これはかなりの割合で出てくる質問です。そして多くの場合、この不安が理由で何年も動けずにいます。金額が払えないから動かないのではなく、相談することそのものが引き金になるのが怖くて電話を切ってしまう。

結論から書きます。税理士には守秘義務があり、相談の内容を税務署に伝えることはありません。ただ、「ありません」とだけ言われても安心できないと思うので、どういう仕組みでそうなっているのか、逆にどういうときは引き受けられないのかまで書きます。群馬県高崎市で会計事務所をやっている立場からの話です。

守秘義務は、税理士法で定められている

税理士法に、秘密を守る義務という条文があります。正当な理由なく、業務に関して知った秘密を他に漏らしてはならない、という内容です。

この義務にはいくつか特徴があります。

税理士でなくなった後も続く。廃業しても、義務は消えません

事務所の職員にも及ぶ。資格のないスタッフも同じ義務を負います

違反には罰則がある。懲戒処分の対象であり、それとは別に罰則も定められています

つまり、税理士が顧客の情報を税務署に流すという行為は、単なるマナー違反ではなく、資格と生活を失う行為です。制度としてそう作られています。心情の問題ではないので、相手の人柄を見極める必要もありません。

ちなみに、税務署から事務所に対して顧客のことを聞かれることはあります。ただしそれは、その顧客について調査が始まった場合に、税務代理をしている立場として窓口になるという話です。こちらから何かを知らせにいく仕組みはありません。

相談しただけでは、何も始まらない

もうひとつ、誤解されやすい点があります。相談と依頼は別です。

話を聞いて、費用と作業量をお伝えして、そこで「やめておきます」と言っていただいて構いません。契約していない段階でも守秘義務は働きますし、相談したことが記録されて外に出ることもありません。他の事務所を探すために、うちの見積もりだけ持って帰る方もいます。

冒頭の方も、最初の電話は名乗らずに一般論だけを聞いて終わりました。実際に来られたのは3週間後です。その3週間は無駄ではなくて、必要な時間だったと思っています。無申告の相談は、金額の話より前に、話しても大丈夫かどうかを確かめる段階があります。

よくある3つの誤解

1つめ、税理士は税務署側の人間なのではないか。

税理士は納税者の代理人です。税務代理という、依頼者の立場で税務署とやりとりをする権限が与えられています。立場としては税務署の反対側にいます。

税務署に長く勤めた方が退職後に税理士になるケースもあるので、そこが混ざって見えるのだと思います。ただ、登録した時点で負う義務は同じです。私自身は監査法人からの登録なので、税務署に勤めた経験はありません。

2つめ、電話した時点で名前が記録に残るのではないか。

事務所の顧客管理としては残ります。当然ながら、その情報が外に出ることはありません。どうしても気になる場合は、最初の電話で名乗らなくても差し支えありません。実際、名乗らずに始まる相談はあります。

3つめ、申告書を出したら、すぐ調査が来るのではないか。

期限後の申告書を出したことが、そのまま調査につながるわけではありません。むしろ、申告がない状態のほうが税務署から見ると分かりやすい対象です。税務調査が来やすい会社の特徴にも書きましたが、情報がない状態を放置しておくほうがリスクは高い。

税務署の相談窓口に聞くのとは、何が違うのか

「税務署に直接聞けばいいのでは」と考える方もいます。無料ですし、制度の説明は正確です。

違いは2つあります。

ひとつは、相談相手が課税する側だということ。守秘義務がどうこう以前に、話した内容はそのまま税務署の中にあります。無申告の状態を自分から説明しに行くことになるので、心理的なハードルは税理士に話すより高いはずです。

もうひとつは、有利不利の判断はしてもらえないということ。制度がどうなっているかは教えてもらえますが、あなたの場合にどの方法を選ぶと負担が軽くなるか、という相談には乗りません。これは意地悪をされているのではなく、役割が違うからです。

無申告の処理は、何年分を出すか、経費をどこまで拾うか、納付をどう組むかで結果が変わります。選択肢を並べて選ぶ作業なので、納税者側に立つ人間が必要になります。

隠さずに話したほうがいい、実務上の理由

気持ちの問題ではなく、実務上こうしてほしい、という理由が3つあります。

見積もりが崩れるから。あとから別の口座や別の収入が出てくると、作り直しになります。作業量も費用も変わります。最初に全部出してもらえば、金額は動きません。

申告書の内容が事実と違ってしまうから。こちらは渡された資料をもとに作ります。知らされていない売上があれば、当然それは入りません。そして、その申告書は依頼者の名前で提出されます。

あとで見つかったときの扱いが変わるから。忙しくて出していなかったのと、意識的に除いていたのとでは、上乗せされる金額がまったく違います。後者と判断されると重加算税という枠になり、その先の対応も難しくなります。無申告のまま何年も経っている場合の進め方のほうにも書きましたが、この線引きは早い段階ではっきりさせておいたほうがいい。

金額を聞いて驚くことはあっても、無申告であること自体で驚くことはありません。相談として珍しくないからです。

税理士側が引き受けられないケース

守秘義務の話とセットで、こちらも書いておきます。何でも引き受けられるわけではありません。

売上を抜いたまま作ってほしい、というご依頼は受けられません。税理士法に、不正に税を免れる行為について相談に応じてはならない、という定めがあります。これも懲戒の対象です。「この口座は入れないでほしい」と言われた時点で、その仕事はお断りします。

もうひとつ、連絡が続かない見込みの場合も難しいです。無申告の処理は、通帳を集める、記憶を確認する、納付の相談をする、と依頼者本人に動いてもらう場面が何度もあります。作業だけ預かって完結する仕事ではありません。

逆に言えば、この2つに当てはまらなければ、断られる理由はほとんどありません。何年分あっても、資料がなくても、金額が大きくても、それは作業量の話であって受任の可否とは別です。

相談の前に用意するもの

身構える必要はありませんが、次の4つが分かると話が早く進みます。

何年分あるか。正確でなくて構いません。おおよそで

収入がどこから入っていたか。取引先が法人か個人か、現金かどうか

通帳。事業用と生活用が混ざっていても問題ありません

税務署から届いた書類。もし届いているなら、開封していなくてもお持ちください

冒頭の方は、この4つを持って3週間後にみえました。3年分をまとめて提出し、今は毎年の申告が回っています。あのとき電話を切っていたら、まだ何も動いていなかったはずです。

聞くだけなら、失うものはありません。

名乗らずに、一般論だけ聞いていただいても構いません

何年分あるか分からない段階でのご相談も承っています。費用は料金表を、事務所の考え方はごあいさつをご覧ください。

TEL 027-386-2807(平日9:00〜18:00)

群馬県高崎市江木町610-10 ミノラスビル3階

公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太