「封筒が届いたんですが、開けていません」
これも、無申告のご相談でよく聞く一言です。税務署から封書が届いて、宛名を見た時点で手が止まった。引き出しに入れたまま2週間、という方もいました。
気持ちは分かりますが、この段階は、実はまだ選択肢が残っている時期です。封書が来たから終わり、ではありません。ただし、放置している間に段階は進みます。進んでしまうと選べる手が減ります。
今回は、封書が届いた時点で税務署の側で何が起きているのか、届く書類にどんな種類があるのか、そしてこの段階で何をすれば負担が軽くなるのかを書きます。群馬県高崎市で会計事務所をやっている立場からの話です。
目次
封書が来た時点で、税務署は何を持っているか
まず前提として、税務署は何も知らない状態で封書を送りません。手元に何かがあって、それと申告がないことが突き合わない、という状態で送られてきます。
よくある材料はこのあたりです。
取引先が提出した法定調書や、経費として計上した支払の記録
不動産の登記情報。売買や相続で名義が動くと把握されます
プラットフォームや決済事業者への照会で得た取引情報
海外送金の記録、法人側の調査で出てきた相手先の情報
つまり、封書が届いているということは、すでにこちらの収入の一部が向こうの手元にあるということです。「黙っていればやり過ごせるのでは」という発想が成り立たない段階まで来ています。
逆に言えば、把握されているのは「一部」であることが多い。全体を正確に出せるのはこちらだけです。ここが後で効いてきます。
届く書類は1種類ではない
「税務署から手紙が来た」と言われても、中身によって置かれている段階がまったく違います。おおまかに4つです。
1. お尋ね・ご案内の類。「申告についてのお尋ね」など。確認のための照会で、回答用紙と返信期限が同封されていることが多い。段階としては一番手前です。
2. 調査の連絡。実地調査を行う旨の通知です。日程調整のために電話が来ることもあります。ここから先は税務調査の流れに書いた進み方になります。
3. 税額を決める処分の通知。申告がないまま、税務署の側で税額を確定させるものです。こちらの経費は反映されないので、実態より重くなるのが普通です。
4. 督促状。税額が確定していて、納付が済んでいない段階。この先に差押えがあります。
見分け方は、封書の表題と、担当部門の名前、そして回答期限が書かれているかどうかです。どれが届いているかで、取れる手が変わります。ご相談のときも、まずここを確認します。
この段階なら、まだ軽いほうで済む
ここが一番お伝えしたいところです。
無申告加算税の率は、どの段階で申告したかによって変わります。調査で指摘されてから出すのが一番重く、自分から出すのが一番軽い。そして、上の1にあたるお尋ねを受けて自分から期限後申告をする場合は、実務上、軽いほうの扱いになります。
照会に応じて出すのだから自主的とは言えないのでは、と思われるかもしれませんが、調査としての手続きが始まる前の段階なので、扱いが違います。ここは封書の文面によって判断が分かれるところなので、現物を見て確認する必要があります。
言い換えると、封書を引き出しに入れたまま期限を過ぎ、次の段階に進んでから動くと、同じ税額でも上乗せが増えます。2週間放置した分がそのまま金額になる、ということが起こります。
段階ごとの差がどのくらいになるかは、無申告のまま何年も経っている場合の進め方に実例を入れてあります。
相続したアパートで4年無申告だった方
お父様から木造アパート2棟、合わせて14室を相続された方です。家賃収入は年620万円ほど。管理は地元の不動産会社に任せていて、通帳に入金があるのを確認するだけの状態でした。
相続税の申告は別の事務所で済ませていたのですが、その後の家賃収入について申告が必要だという認識がなかった。給与所得者で年末調整を受けていたので、確定申告そのものをしたことがなかったそうです。悪意はまったくありません。
4年目に封書が届きました。相続で登記が動いているので、税務署の側から見れば不動産を持っていることは明らかです。むしろ4年も来なかったほうが不思議なくらいでした。
結果として、4年分をまとめて作成して提出しました。固定資産税、損害保険料、修繕費、そして建物の減価償却を入れると、所得は家賃収入よりかなり小さくなります。税務署が持っているのは入ってきた金額の情報だけで、出ていったほうの情報はありません。こちらから出さなければ、経費のない状態で計算されます。
なお、居住用の住宅の家賃には消費税がかかりません。同じ無申告でも、事業をされている方に比べると負担は小さくなります。業種と収入の種類によって、出てくる金額はかなり変わります。
もうひとつ。この規模なら、青色申告にしていれば受けられた控除がありました。期限内に申告していることが条件になっているものが多いので、無申告の間はそこが全部落ちています。払わなくてよかった分を払っている、という言い方もできます。
やってはいけない4つ
無視する。一番多い対応で、一番損をします。回答がないまま期限を過ぎれば、次の段階に移るだけです。
電話で記憶のまま答える。担当者から電話が来ることがありますが、その場で数字を答える必要はありません。確認して折り返します、で構いません。あとで違っていたときに、こちらが不利になります。
急いで適当な金額を書いて返送する。返した内容は記録に残ります。あとから直すと、なぜ最初と違うのかを説明することになります。
資料を処分する。これは最悪の手です。意図的に隠したと判断されると、上乗せの枠そのものが変わります。通帳もカード明細も、そのまま残しておいてください。
回答期限に間に合わないとき
何年分もある場合、指定された期限までに正確な数字を出すのは物理的に無理なことがあります。
そのときは、期限内に連絡だけ入れてください。資料を集めていること、税理士に依頼したこと、いつ頃までに提出できる見込みかを伝える。無視と、連絡した上で遅れるのとでは、扱いがまったく違います。
税理士に依頼している場合は、こちらから連絡を入れて窓口になります。ご本人が直接やりとりする必要はなくなるので、そこで一度気持ちが落ち着く方が多いです。
開封していなくても、持ってきてください
封を切らないまま相談に来られる方は、実際にいます。こちらで開けて内容を確認します。何が届いているかが分かれば、その日のうちに次の手は決まります。
相談したことが税務署に伝わるのではと心配される方もいますが、税理士には守秘義務があるので、そこは切り離して考えていただいて大丈夫です。
封書が届いてからの時間は、そのまま金額に変わります。中身を見るのが怖いなら、見ないまま持ってきてもらえれば十分です。















