「会社を作ってからじゃないと融資は受けられないんですか。それとも、先にお金を借りてから作るべきなんでしょうか」
創業の相談で、必ず出てくる質問です。順番を間違えると取り返しがつかないような気がして、そこで手が止まってしまう。実際、この順番は結果に効きます。
結論から書きます。法人でやると決めているなら、会社設立が先です。ただし、設立したその足で申し込めばいいわけでもありません。設立の前に決めておかないと、あとから直せなくなることがいくつかあります。
この記事では、設立と融資申込の順番、逆算したスケジュール、そして創業融資には期限があるという話を書きます。
目次
法人で借りるなら、設立が先
理由は単純です。法人としてお金を借りるには、その法人が存在していなければなりません。
申込みには履歴事項全部証明書が要ります。定款も、印鑑証明書も、法人名義のものが必要です。融資が実行されたお金の振込先も、法人名義の口座になります。設立前の会社は、この全部が用意できません。
「設立費用を借りたいのですが」と相談を受けることがあります。気持ちは分かるのですが、設立前の会社には貸せません。登録免許税や定款認証の費用は、自己資金から出すことになります。
なお、公庫の創業融資は事業を始める前の段階でも申し込めます。ただしそれは「事業を始めていない」ことが許されるのであって、「会社がない」ことが許されるわけではありません。法人でいくなら、まず会社を作る。ここは動きません。
個人で借りてから法人成りすると、何が起きるか
では、先に個人事業主として借りて、あとから法人にすればいいのではないか。この発想は理屈としては成り立ちます。実際、そうなさっている方もいます。ただ、あとで面倒が出ます。
借入は個人の名義のまま残ります。事業を法人に移しても、返済義務は個人についてきます。これを法人に移すには、金融機関の承諾を得たうえで債務引受の手続きが必要です。応じてもらえるかどうかは、法人の状況次第です。
承諾が得られなければ、個人が借りたお金を法人に貸し付ける形で処理することになります。帳簿には役員借入金として残り、個人は法人からお金を戻してもらいながら公庫に返す。返済の流れが二重になります。決算書にも、実態より分かりにくい形で載ります。
最初から法人でやると決めているなら、この遠回りをする理由はありません。逆に、まず個人で小さく始めて、うまくいったら法人にする、と決めているなら個人で借りて構いません。判断の基準は、法人化の時期を今の時点で決めているかどうかです。
本当のボトルネックは法人口座
設立から融資実行までの間で、いちばん読みにくいのが法人口座の開設です。ここで止まる方を何人も見てきました。
口座開設には審査があります。マネーロンダリング対策の要請が強まって以降、新設法人の口座開設は年々厳しくなっています。事業の実態が確認できないと判断されると、断られます。
断られやすいのは、こういうケースです。
・本店がバーチャルオフィスやレンタル住所になっている
・定款の事業目的が多すぎる、または内容がばらばらで実態がつかめない
・資本金が1円など極端に少ない
・ホームページも名刺も、事業を裏づける資料が何もない
・代表者の住所と本店所在地が離れすぎている
私が関わった案件でも、設立を終えて融資の準備も整えたのに、口座が開かずに1か月止まったことがあります。融資が決まっても、着金する先の口座がない。結局、地元の信用金庫に代表者と一緒に出向いて、事業の内容を直接説明して開設にこぎつけました。
高崎で創業されるなら、群馬銀行、東和銀行、しののめ信用金庫といった地元の金融機関に、設立前の段階で一度足を運んでおくことをお勧めします。顔を知ってもらっておくだけで、口座開設の通りやすさが変わります。制度融資を使うなら、どのみち窓口になる相手です。どこと付き合うべきかは公庫と保証協会付き制度融資の違いにも書きました。
設立前に決めておくべき4つのこと
設立が先、と書きましたが、急いで登記だけ済ませるのは勧めません。設立時に決めた内容は、あとから変えると登記費用と手間がかかります。融資に関係するものだけ挙げておきます。
資本金の額
資本金は、自己資金がいくらあるかを示す数字として見られます。手元の自己資金を全部資本金にする必要はありませんが、極端に少ないと、そのまま自己資金が乏しいと受け取られます。融資の希望額との釣り合いも見られます。
資本金の払込みの流れ
資本金は、設立前に代表者の個人口座へ払い込みます。この通帳の記録が、そのまま自己資金の証明になります。だからこそ、直前に誰かから借りたお金を入れて資本金にする形は避けてください。面談で必ず出所を聞かれます。
事業目的
定款に書く事業目的は、実際にやることを中心に、簡潔にまとめます。将来やるかもしれない事業を並べすぎると、何の会社か分からなくなり、口座開設でも融資でも不利に働きます。許認可が必要な業種は、その許認可に対応した文言が入っていないと申請できません。
本店所在地
高崎市の創業支援制度や群馬県の制度融資には、市内や県内に事業所があることが条件になっているものがあります。自宅を本店にするか、事務所を借りるか。ここは制度の使い方にも直結します。
創業融資には、事実上の期限がある
ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。
創業融資は、実績がないことを前提に貸してくれる制度です。決算書がまだ存在しないから、事業計画と本人の経験で判断してもらえる。ところが1期目の決算が終わると、判断の材料が決算書に変わります。
創業して1年目が黒字で終わる会社は多くありません。設備投資をして、人を雇って、売上が立ち上がるまで数か月かかる。当たり前に赤字になります。その決算書を持って融資を申し込むと、今度は赤字の会社として審査されます。
つまり、いちばん借りやすいのは会社を作った直後です。時間が経つほど条件は悪くなる。「もう少し様子を見てから」と考える方が多いのですが、実務の感覚としては逆です。
実際に、設立から10か月ほど経って相談に来られた方がいました。開業して手応えを感じたので、そろそろ設備を増やしたいというご相談です。ただ、あと2か月で1期目の決算を迎える。決算が出てからでは条件が変わってしまうので、その場で創業計画書の作成に取りかかり、決算前に申し込みました。もう少し遅ければ、話は違っていたはずです。
お金が今すぐ要るかどうかとは別に、借りられるうちに枠を確保しておく。この発想は持っておいてください。
設立から着金までの逆算スケジュール
実際にどのくらいの期間を見ておけばいいのか。目安を書いておきます。
・設立準備(事業目的・資本金・決算期を決め、定款を作る) 1〜2週間
・資本金の払込みと設立登記の申請 法務局に出してから完了まで1〜2週間
・法人口座の開設 1〜3週間(断られるとやり直し)
・創業計画書の作成と融資の申込み 1〜2週間
・面談から審査、実行まで 3週間〜1か月半
合わせると、設立を思い立ってから着金まで、およそ2か月から3か月です。制度融資を使う場合は保証協会と市の窓口が加わるので、さらに時間がかかります。
物件の契約や設備の発注に期日がある方は、この期間を必ず織り込んでください。「開業予定日の1か月前に申し込めばいい」と考えていて間に合わなかった、という相談を受けることがあります。逆算すると、動き出すのは開業の3か月前です。
計画書の中身については創業計画書の書き方、面談の準備については創業融資の面談対策に書いています。
順番で損をしないために
整理します。法人でやるなら設立が先。ただし設立時に決める内容が融資に効くので、登記だけ先に済ませるのは避ける。そして、借りるなら1期目の決算が出る前に動く。
この3つを外さなければ、順番で損をすることはありません。
私が創業のご相談を受けるときは、設立と融資を切り離さずに一本のスケジュールとして組みます。資本金をいくらにするか、事業目的をどう書くか、決算期をいつにするか。どれも融資の審査に響くので、設立を終えてから融資の話を始めるのでは遅いのです。私がどんな考えで事務所をやっているかも、よければご覧ください。















