「自己資金、正直ほとんどないんです。それでも借りられますか」。創業融資のご相談で、いちばん多く聞かれる質問です。ネットで調べると「自己資金なしでもOK」と書いてあるページが山ほど出てくるので、期待して来られる方が多い。私の答えは毎回同じです。「制度の上では借りられます。ただ、面談では必ず聞かれます」。
この二つは矛盾していません。要件として書かれていないことと、審査で見られないことは別の話だからです。この記事では、2024年の制度見直しで何が変わったのか、それでもなぜ自己資金を聞かれるのか、そして自己資金として認めてもらえるお金の範囲までをお話しします。私が「今はやめて3か月待ちましょう」と申し上げる場面についても、正直に書きます。
目次
1.「自己資金ゼロでもOK」は半分本当で、半分は誤解
まず結論から書きます。自己資金がゼロでも、創業融資の申込みはできます。門前払いにはなりません。実際に、手元資金がほとんどない状態で申込みをして、減額されながらも実行まで至った方を私は何人も見ています。
ただ、そこには条件があります。自己資金の少なさを、別の何かで説明できていることです。逆に言えば、自己資金もない、実務経験も浅い、売上の見込み先も口約束だけ、という三点セットになると、まず通りません。自己資金は単独の合否基準ではなく、いくつかある評価項目のうちの一つ。だから「ゼロでもOK」も「ゼロだと無理」も、どちらも正確ではないのです。
2. 2024年、自己資金要件は制度の文面から消えた
かつて日本政策金融公庫には「新創業融資制度」という無担保・無保証の枠があり、そこには創業資金総額の10分の1以上の自己資金を用意することという要件が明記されていました。1,000万円で始めるなら100万円は自分で出しなさい、という線引きです。
この制度が2024年4月に見直され、創業向けの融資は「新規開業・スタートアップ支援資金」に整理されました。このとき、10分の1の自己資金要件は文面から外れています。つまり制度上は、自己資金の金額でふるいにかける仕組みではなくなりました。あわせて融資限度額の拡大や返済期間の延長も行われ、創業者にとっては形式面ではむしろ借りやすくなったと言えます。
要件が消えたことと、見られなくなったことは別
ここを勘違いすると危険です。制度改正後に私が同席した面談でも、自己資金の話は毎回出ています。聞き方が「10分の1ありますか」から「開業資金はどのように準備されましたか」に変わっただけで、確認していることは変わりません。むしろ金額の基準線が消えたぶん、担当者の裁量による総合判断の比重が上がった、というのが現場の感覚です。
3. それでも面談で必ず聞かれる理由
なぜ金融機関は自己資金にこだわるのか。担保が取れないからです。創業時は決算書もなければ取引実績もない。土地建物もない。判断材料が極端に少ない中で、貸す側が見ているのは「この人はお金の使い方を管理できる人か」という一点に集約されます。
毎月の給料から少しずつ積み立てて200万円を作った通帳は、その人が数年間、収入の範囲で生活を組み立て、目的のために我慢できたことを証明します。事業計画書に書かれた売上予測より、はるかに雄弁です。自己資金は金額そのものより、「どうやって貯めたか」という過程が見られている。私はご相談者にいつもそう説明しています。
私はこれまで、創業のご相談から融資の面談同席、その後の決算までを通じて、多くの中小企業の数字に向き合ってきました。申込む側に立って何度も審査の場に同席していると、この「貯め方を見る」という発想が、創業融資に限らず金融機関の審査に一貫していることがよく分かります。目先の残高より、そこに至る経過を見ている。ここを押さえておくと、準備の方向がぶれません。
4. 自己資金と認められるお金、認められないお金
ここは実務で誤解が非常に多いところです。整理します。
■ 認められるもの
・給与などから計画的に積み立てた預貯金
・退職金(入金の記録が通帳で追える)
・親族から贈与を受けた資金(贈与契約書があり、返済義務がないことが明確なもの)
・すでに事業のために支出した開業費(内装工事の前払金、機械の手付金など。領収書が必要)
・保険の解約返戻金、有価証券の売却代金
■ 認められない、または疑われるもの
・申込み直前に一括で入金された出所不明のお金(いわゆる見せ金)
・親族や知人からの借入金(返済義務があるため、自己資金ではなく負債)
・タンス預金を直前に入金したもの(記録がなく、説明が通らない)
・カードローンや他の借入で調達した資金
見せ金については、いまだに「一時的に借りて入金すればいい」と助言する人がいるようですが、やめたほうがいいです。公庫の面談では通帳の原本を求められ、直近半年から1年の動きを見られます。不自然な一括入金は必ず質問されますし、そこで説明が崩れると、自己資金の話だけでなく申込み全体の信用が失われます。減額で済まず、否決になるパターンです。
なお、親御さんからの資金援助は使える手ですが、贈与なのか借入なのかを最初にはっきりさせてください。贈与なら贈与税の基礎控除(年110万円)との関係を確認する必要がありますし、借入なら自己資金ではなく返済計画に組み込む必要があります。曖昧なまま面談に臨むと、その場で答えに詰まります。
5. 自己資金が少ないまま通った人に共通していたこと
では、自己資金が乏しいのに実行までたどり着いた方は、何が違ったのか。私が見てきた範囲では、共通点が三つあります。
同業での勤務経験が長い
これがいちばん効きます。高崎市内で電気工事業として独立された方は、自己資金は80万円ほどしかありませんでした。ただ、同じ業種で12年間勤めており、現場の段取りも積算も一人でできる。前職の取引先からも「独立するなら回す」と言われている。この状態なら、自己資金の薄さは経験値で補えます。実際、希望額から少し減額されただけで実行されました。
売上の入口が具体的である
「開業したら営業します」ではなく、「この会社から月にこれくらいの発注がある見込みで、担当者名はここ」まで言える状態です。口約束でも構いません。名前と数字が出てくると、計画書の説得力がまるで変わります。
生活費の見通しを説明できる
意外と見落とされますが、担当者は「この人は売上が立つまでの数か月、生活できるのか」を気にしています。配偶者に収入がある、当面の生活費は別に確保してある、といった事情は、聞かれる前に自分から伝えたほうがいい。運転資金の必要額の妥当性にも直結します。
6. 本当にゼロなら、私は「3か月待ちましょう」と言う
手元資金が本当にゼロで、経験も浅く、売上の見込み先もこれからという方には、私は申込みを止めることがあります。理由は二つです。
一つは、否決の記録が残ることです。公庫で一度断られると、次の申込みは通常6か月ほど間隔を空けることになります。準備不足のまま出して落ちるより、3か月かけて形を整えてから出すほうが、結果的に早い。
もう一つは、3か月あれば状況が変えられるからです。毎月10万円ずつでも積み立てれば通帳に3回の記録が残ります。金額としては30万円でも、「開業を決めてから毎月きちんと積み立てている」という事実は、面談で必ず評価されます。その間に見込み客への挨拶回りを済ませ、必要な備品の見積書を集めておけば、計画書の解像度も上がる。急がば回れ、という言葉が本当に当てはまる場面です。
なお、事業の内容そのものを見直したほうがいい場合もあります。設備投資の一部をリースに切り替える、中古品で始める、最初は自宅を拠点にする。必要資金の総額を下げれば、同じ自己資金でも比率は改善します。会社設立のご相談の段階から関わらせていただくと、この調整がやりやすくなります。
7. 高崎で借りるなら、順番を間違えないこと
自己資金の話とあわせて、必ずお伝えしていることがあります。高崎で創業される方は、公庫に直行する前に高崎市の制度を確認してください。市の利子補給や群馬県の制度融資を使えば、同じ金額を借りても最終的な負担が変わります。順番を間違えると、後から申請できない制度があるためです。詳しくは創業融資はどこで借りるべきかの記事に書きました。
また、いくら借りるかを決める前に、会社をいくらで作るかを決める必要があります。資本金として払い込んだお金は、そのまま自己資金の裏づけにもなります。この関係を理解しないまま資本金を1円にしてしまうと、あとで説明に苦労します。こちらは資本金はいくらにすべきかで詳しく書いています。
当事務所では、創業融資の支援を会社設立の段階から一体でお引き受けしています。融資支援の累計は3億円を超えました。面談に同席し、想定される質問と答え方まで一緒に準備します。自己資金が少ないから相談しづらい、と感じる必要はまったくありません。むしろ少ない方ほど、早めに相談していただいたほうが打てる手が多く残っています。
私自身の経歴や事務所の考え方については代表あいさつをご覧ください。
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