創業融資はいくら借りるべきか|自己資金と借入額のバランス【群馬・高崎】

「いくらまで借りられますか」

創業融資の相談で、最初に出てくる質問はほぼこれです。先日も高崎市内で基礎工事業を法人化する方から、同じ言葉で聞かれました。

気持ちは分かります。ただ私は、この質問には正面から答えないことにしています。借りられる額と、借りるべき額は違うからです。上限まで借りて失敗した会社も、遠慮して借りずに半年で資金が尽きた会社も、どちらも見てきました。

制度上の上限と、実務上の上限は別物

日本政策金融公庫の新規開業資金は、制度上の融資限度額が7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。数字だけ見れば大きい。

ただ、これは制度の枠であって、創業前の会社に7,000万円が出るという意味ではありません。実績のない会社に対する初回の融資は、私が関わってきた範囲だと、自己資金があまり用意できていない方で300万円という着地がいちばん多い印象です。自己資金を数百万円貯めてきた方で500万円から1,000万円。設備投資が大きい業種で、自己資金も相応にあって、ようやく1,500万円前後というところです。

返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金が10年以内。据置期間は最長5年まで取れます。この据置期間の扱いが、あとで効いてきます。

自己資金の何倍まで借りられるのか

2024年の制度改正で、創業時の自己資金要件そのものは撤廃されました。形式的には、自己資金がゼロでも申し込めます。

ただし審査で見られなくなったわけではありません。要件から外れただけで、判断材料としてはむしろ以前と変わらず重視されています。この点は自己資金なしで創業融資は受けられるかで詳しく書きました。

実務上の感覚でいうと、自己資金の2倍から3倍が通りやすい水準です。4倍を超えると説明の負荷が一気に上がります。自己資金300万円なら600万〜900万円、500万円なら1,000万〜1,500万円。ここが最初の目安になります。

なお自己資金として認められるのは、通帳で出所が追える資金です。親から借りた金は自己資金になりません。贈与を受けたのであれば、贈与として記録を残しておく必要があります。

必要額は積み上げで出す

借入額を決める作業は、本来は二つの方向から挟み撃ちにします。一つは必要額の積み上げ、もう一つは返済可能額からの逆算です。

積み上げのほうは単純で、設備資金と運転資金を分けて計算します。

設備資金は見積書ベースで

内装工事、機械、車輌、敷金・礼金。これらは見積書を添付して申し込みます。逆に言えば、見積書さえ揃っていれば説明はいらない部分です。建設業のように機械や工具が中心になる場合も同じで、販売店から正式な見積書をもらってください。カタログの定価やネットの参考価格では通りません。

注意したいのは、見積もりを取る前に融資を申し込んでしまうケース。金額が固まっていないと、資金使途が曖昧だと判断されます。物件や機械が決まっていないなら、まずそこを決めてください。

そしてもう一つ。設備は、そもそも買わないという選択肢があります。ダンプのような車輌は、中古でも1台あたり数百万円です。買えば設備資金として借入額が膨らみ、月々の返済がそのぶん重くなる。レンタルやリースにすれば初期投資は消え、代わりに毎月の固定費として乗ります。

私は、初年度は借りる側に寄せることを勧めています。仕事量が読めない段階で車輌を所有すると、稼働していない月も返済だけが続きます。レンタルなら、現場が止まった月は費用も止まる。売上が安定して、稼働率が見えてから買い替えればいい。この判断だけで、借入額が数百万円変わります。

運転資金は「6か月分」を基準に

運転資金は、売上がゼロでも払わなければならない固定費の6か月分を基準にしています。家賃、人件費、リース料、水道光熱費、そして社長自身の生活費。

3か月分では足りません。開業してから軌道に乗るまで、業種にもよりますが半年はかかります。飲食や美容のように客がつくまで時間がかかる業態なら、私は8か月分で計算することもあります。

ここで多くの方が生活費を計算に入れ忘れます。役員報酬を払うということは、会社から現金が出ていくということです。会社設立にかかる実費とは別に、毎月の固定費として積んでおいてください。

この生活費については、私は明細を作って面談で見せることにしています。家賃または住宅ローン、食費、水道光熱費、通信費、保険料、車の維持費、子どもの学費。通帳と実際の支出から一つずつ書き出すと、たいていは本人の申告より低い金額に落ち着きます。

そのとき同居されているご家族の収入も一緒に載せます。配偶者に収入があるのか、ご両親と同居で家賃負担がないのか。世帯として毎月いくら必要で、そのうち会社から出す分がいくらなのか。ここまで書いた紙を出すと、面談の空気が変わります。

「役員報酬を月20万円にします」とだけ言えば、審査担当者は本当に足りるのかを疑います。世帯の家計まで示して初めて、その金額に根拠が生まれる。生活が成り立つと分かれば、事業の数字にも説得力が出ます。

返済できる額から逆算する

積み上げた必要額が、返せる額を超えていないか。これを確認する作業が抜けている計画書をよく見ます。

借入金の返済原資は、税引後の利益と減価償却費です。売上ではありません。ここを取り違えると、計画上は返せることになっているのに実際は返せない、という状態になります。

たとえば1,000万円を7年で借りたとします。年間の返済は約143万円、月にすると約12万円。これを賄うには、税引後利益と減価償却費の合計が年143万円以上ないといけません。法人税を考えると、税引前で200万円前後の利益が必要になる計算です。

1期目からその利益を出せるか。出せないなら、据置期間を使って元金の返済開始を遅らせるか、借入額そのものを見直すか。どちらかです。

据置期間は便利ですが、その間も利息は発生しますし、据置が明けた月から元金が乗ってきます。据置2年で1,000万円を借りて、残り5年で元金を返すとなると、月々の返済は約17万円に跳ね上がる。据置は猶予であって免除ではありません。

少なく借りるほうが危ない理由

「借金は少ないほうがいい」と考えて、必要額より控えめに申し込む方がいます。堅実に見えますが、創業融資に関しては私は勧めていません。

理由は単純で、次に借りられるのが1期目の決算が終わってからだからです。7月に設立して6月決算なら、次の融資の相談ができるのは1年後。その間に資金が尽きても、実績のない会社が追加で借りるのは相当に難しい。

創業時は、実績がないという理由で審査に通る、唯一のタイミングです。この枠を使い切らずに残しておいても、あとで使えるわけではありません。

もちろん、返せる範囲であることが前提です。返済可能額の計算をしたうえで、その上限に近いところを取りにいく。これが私の考える適正額です。

高崎市には創業者向けの利子補給制度があり、条件を満たせば利息の負担を実質的に下げられます。借入額を決める前に、この制度が使えるかどうかも確認してください。詳しくは創業融資はどこで借りるべきかで書いています。

高崎の基礎工事業者の場合、いくらにしたか

冒頭の基礎工事業の方は、自己資金が100万円台でした。決して多くはありません。ただ、弟さんが個人事業で同じ仕事をされていて、そこに合流する形での法人設立でした。ゼロからの立ち上げではなく、すでに動いている仕事があり、取引先も確定申告書もある。この点が審査では大きく効きます。

最初の相談で、この方はダンプを買うつもりでいました。中古でも数百万円です。自己資金は100万円台。積み上げるまでもなく、これだけで成り立ちません。

そこでダンプはレンタルに切り替えました。月十数万円の固定費になりますが、初期投資はゼロです。現場が途切れた月は借りなければいい。所有していれば、動いていなくても返済は続きます。1期目は身軽にしておいて、稼働率が読めるようになってから買う。その順番にしました。

設備として残したのは、自分たちで持っていないと現場が回らない工具類だけ。こちらは販売店から見積書をもらって申し込んでいます。

運転資金のほうは、ダンプのレンタル料、燃料と高速代、資材置き場と事務所、通信・保険。これが事業側の固定費です。ここに役員報酬が乗ります。

その役員報酬を決めるために、生活費の明細を一緒に作りました。奥さんにも収入がありました。世帯として必要な額から奥さんの収入を差し引くと、会社から出すべき金額は本人が当初言っていた水準よりだいぶ低くて足りることが分かりました。

本人は「30万円は取りたい」と言っていました。明細を作ってみて、その半分程度でも生活が回る。この紙は面談にも持っていきました。世帯の収支まで示したうえで役員報酬を低く置いていると説明できたのは、大きかったと思います。

最終的に申し込んだのは300万円でした。自己資金のおよそ2倍から3倍という、通りやすい水準の範囲内です。

積み上げた必要額は、それより少し上に出ていました。差額は、取引先からの入金が比較的早かったことと、資材の仕入れの支払いを1か月ずらせたことで吸収しています。運転資金として持っておくべき月数を、少し短くできたということです。

返済期間は7年、据置は半年。月々の返済は3万円台に収まりました。この水準なら、現場が2週間止まっても資金は持ちます。

結果として、300万円という金額は「借りられる上限」ではなく「この体制で確実に返せる額」として出てきた数字でした。ダンプを買っていたら、必要額は一気に膨らみ、この自己資金では通らなかったと思います。

こうやって数字を並べていくと、「いくら借りられますか」という問いは、途中から「この計画は成り立っているか」という問いに変わっていきます。融資の相談は、実質的に事業計画の検証作業です。金額だけ先に決めることはできません。

借入額の設計からご相談ください

ミノラス会計事務所では、必要資金の積み上げと返済可能額の逆算をセットで行い、無理のない借入額を一緒に決めています。創業計画書の作成から公庫面談の対策まで対応します。

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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太