「所得税は毎年ちゃんと出してたんです。消費税って、自分も関係あったんですか」
内装の仕事をしている一人親方の方から、こう聞かれました。確定申告は毎年3月に自分で済ませていた。無申告という自覚はまったくありません。それでも、消費税については2年分、何も出していなかった。
きっかけは、元請から求められてインボイスの登録をしたことでした。登録した時点で、売上の大小にかかわらず消費税の申告が必要になります。ここを知らずに、所得税だけを出し続けている方は少なくありません。
そして、消費税は無申告のときに所得税より重くなりやすい税金です。今回は、その理由と、この方のケースで実際にいくらになったかを書きます。群馬県高崎市で会計事務所をやっている立場からの話です。
目次
いつから納める義務があったか、気づいていない
消費税を納める義務が生じる入口は、大きく2つあります。
ひとつは、インボイスの登録です。登録すると、その時点から課税事業者として扱われます。売上が1,000万円に届かなくても関係ありません。元請や取引先から「登録しないと取引を続けにくい」と言われて番号を取った方は、ここに当てはまります。
登録の手続きは税務署への申請だけで済むので、申告が必要になることの説明を受けないまま登録している方がかなりいます。番号を元請に伝えて、請求書に書いて、それで終わったと思っている。冒頭の方もそうでした。
もうひとつは、2年前の売上です。個人なら前々年、法人なら前々事業年度の売上が1,000万円を超えていれば、今年は納める側になります。売上が1,000万円を超えた年には何も起きず、2年後に突然義務が発生するので、本人の感覚と制度の判定がずれます。前年の上半期の売上と給与の額で判定される場合もあります。
消費税は、利益ではなく売上に比例する
所得税は、売上から経費を引いた利益にかかります。消費税は違います。お客さんから預かった消費税から、仕入や経費で支払った消費税を差し引いた残りを納めます。利益がいくらかは関係ありません。
一人親方の場合、ここが重く効きます。材料を元請から支給してもらい、手間賃だけを受け取る働き方だと、差し引ける支払いがほとんどないからです。道具、車の燃料、消耗品くらいしかありません。売上の大部分に対して消費税がそのまま残ります。
所得税は経費と控除で小さく抑えられていても、消費税は売上に比例して出てくる。所得税を毎年きちんと出していた方ほど、消費税の金額を見て驚かれます。
差し引くには、帳簿と請求書が要る
預かった消費税から、支払った消費税を差し引く。この「差し引く」には条件があります。帳簿と請求書等を保存していることです。
所得税の経費は、カード明細や通帳の記録からある程度組み立て直せます。資料がない状態からの申告で書いたとおりです。ところが消費税のほうは、保存の要件がはっきり決まっているので、記録から推し量って差し引くという扱いがしにくい。
結果として、資料が残っていないと、預かった消費税がほとんどそのまま納付額になります。所得税は資料を集め直せば下がるのに、消費税は下がりにくい。無申告で一番差が出るのがここです。
簡易な計算方法は、あとから選べない
売上が一定以下の事業者には、簡易課税という計算方法があります。実際に支払った消費税を積み上げるのではなく、業種ごとに決まった割合で差し引ける分を計算するものです。差し引ける支払いが少ない一人親方には、たいてい有利に働きます。
建設の仕事でも、材料を自分で仕入れているか、支給を受けているかで業種の区分が変わり、差し引ける割合も変わります。手間賃だけの働き方は、材料持ちより割合が低くなります。ここは請負の実態で判断します。
ただし、簡易課税は原則として、その年が始まる前に届出を出しておく必要があります。無申告だった年について、あとから選ぶことはできません。資料が少ない人ほど有利な制度なのに、その人ほど届出を出していない。手を打てる制度ほど、期限が先に来ています。
一人親方の2年分を4通り並べた
冒頭の方の話に戻ります。内装のクロス張りを専門にしている一人親方で、材料は元請からの支給、受け取るのは手間賃です。年の売上は税込で780万円ほど。元請に求められてインボイスの登録をし、その後の2年分、消費税の申告をしていませんでした。
1年あたりの預かった消費税は約70万9,000円です。ここから差し引ける分をどう扱えるかで、4通りに分かれます。
何も差し引けなかった場合 70万9,000円
支払った消費税を記録から拾えた場合 60万円
簡易課税を届け出ていた場合 28万4,000円
インボイス登録者向けの負担軽減措置が使えた場合 14万2,000円
2番目は、道具や燃料、消耗品のカード明細と領収書から拾えた分を差し引いたものです。材料支給なので、拾える支払いはこれくらいしかありません。3番目の簡易課税は、届出を出していなかったので選べません。
4番目は、免税事業者からインボイス登録をきっかけに課税事業者になった方向けの期限付きの措置です。事前の届出がいらず、申告のときに選べます。この方は要件を満たしていたので、ここで計算しました。
2年分で比べると、2番目なら120万円、4番目なら約28万円。差は90万円を超えます。同じ2年分の消費税でも、使える制度を知っているかどうかでここまで変わります。そしてこの措置には期限があるので、先延ばしにすると使える年が減っていきます。
預かったお金は、もう手元にない
インボイス登録をした一人親方は、元請から消費税込みの金額で支払いを受けています。理屈の上では、納めるべき消費税は受け取った中に含まれているはずです。
ところが実際には、預かったという意識がないまま、生活費や道具代として使ってしまっています。登録前と登録後で振り込まれる金額の構成が変わっていても、通帳の上では区別がつきません。無申告の期間が長いほど、納付の時点で数年分をまとめて用意することになります。
しかも、消費税にも無申告加算税と延滞税が乗ります。所得税と同じく、税務署から連絡が来る前に出すかどうかで上乗せの率が変わります。インボイスの登録番号は公表されているので、登録しているのに申告がないという状態は、外から見ても分かります。
一括で納めるのが難しい場合は、分割で納める相談の制度があります。申請には期限と条件があるので、申告書を作る段階で一緒に組んでおくべきものです。
今からでも間に合うこと
過去の分は変えられませんが、これから先の分は変えられます。
1. インボイスの登録日を確認する。登録通知書か、国税庁の公表サイトで確認できます。その日から課税事業者です。何年分の消費税が必要かは、ここで決まります。
2. 負担軽減措置が使えるうちに申告する。期限付きの措置なので、使える年のうちに出しておかないと、同じ売上でも納める額が大きくなります。自分が対象になるかどうかは、登録前に免税事業者だったかどうかで判断します。
3. 来年以降の簡易課税を検討する。過去には遡れませんが、来年分からは今から選べます。材料支給か材料持ちかで有利不利が変わるので、比較してから決めてください。
4. 元請との契約の形を確認しておく。一人親方への支払いが外注費として扱われるか給与として扱われるかは、元請側の税務でも論点になります。外注費と給与の区分に、元請側から見た判断の基準を書いてあります。自分がどちらに近い働き方なのかを知っておくと、消費税の計算の前提もはっきりします。
所得税をきちんと出している方でも、インボイスの番号を持っているなら、消費税の申告が出ているかどうかを一度確かめてください。全体の進め方は無申告のまま何年も経っている場合の手順にまとめてあります。















