「法人税の申告をしていないのは分かっています。でも、源泉って何ですか」
法人の無申告の相談で、こう聞き返されることがあります。会社を作って、自分に役員報酬を払い、人を雇って給与を払っている。そのすべてから、本当は所得税を天引きして、会社が税務署に納める義務がありました。法人税の申告をしていない会社は、ほぼ例外なく、この源泉所得税も納めていません。
そして、無申告の整理をするとき、私は法人税より先にこちらを見ます。理由をこの記事で書きます。
この記事の内容
源泉所得税は会社の税金ではなく、預かった税金
源泉所得税は、会社が払う税金ではありません。給与や報酬を受け取る人の所得税を、払う側の会社が先に差し引いて、本人の代わりに納める仕組みです。会社は預かっているだけで、お金の持ち主は受け取った本人、納める先は税務署です。
ここが法人税と決定的に違います。法人税は会社の利益に対する会社自身の税金で、赤字なら出ません。源泉所得税は会社が赤字でも黒字でも、給与を払った月には発生しています。法人税の申告をしていない会社でも、源泉の納付義務は別に、毎月走っていました。
預かった税金なので、納めていない状態は「納税が遅れている」ではなく「人から預かったものを渡していない」と見られます。税務署の見方も、法人税の無申告より厳しめです。
何に源泉がかかるか|一人社長でも発生している
源泉がかかるのは、大きく三つです。
・役員報酬。社長が自分に払っている報酬も給与なので、源泉の対象です
・従業員への給与。パートやアルバイトも含みます
・外注先への報酬のうち、決められた種類のもの。デザイン料、原稿料、講演料、税理士や司法書士など士業への報酬、などです
一人会社で従業員がいなくても、社長が役員報酬を取っていれば源泉は発生しています。「人を雇っていないから関係ない」は、よくある誤解です。
一方で、建設業の一人親方や運送の個人事業主への外注費には、源泉はかかりません。請負の報酬は上の「決められた種類」に入っていないからです。ただし、毎日同じ現場で、道具も会社持ちで、時間で払っている、という実態だと、外注ではなく給与と見られて源泉の対象になります。ここは調査で必ず見られる点です。
納めていないと、いくら増えるか
源泉を納めていなかった場合、あとから納めるのは、本来の源泉税額に、不納付加算税と延滞税を足した金額です。本税は本来預かっておくべきだった金額なので、会社の負担として新しく増えるのは、加算税と延滞税の部分です。
金額の例を書きます。社長の役員報酬が月50万円、従業員2名の給与がそれぞれ月25万円、全員に扶養親族がいない、という会社だとします。甲欄という通常の税額表で計算すると、源泉は社長分が月およそ3万円、従業員分が1人およそ6,500円で、3人合わせて月4万3,000円前後、年間で約52万円です。3年間納めていなければ、本税だけで約155万円になります。
・税務署から連絡が来る前に自分で納めた場合の不納付加算税:約8万円
・税務署から納付を求める通知が来てから納めた場合:約16万円
これに延滞税が日数分乗ります。差は8万円ほどで、法人税の無申告加算税に比べれば小さく見えますが、本税の155万円は受け取った本人の税金を会社が立て替えて納める形になるので、資金としてはこちらのほうが重くのしかかります。本税の金額が大きいほど、立て替えの負担は増えます。
なお、源泉を納めていない期間、社長や従業員本人は所得税を一度も納めていない状態です。年末調整もされていないので、本来なら本人側でも清算が必要になります。これは次の節に続きます。
無申告の会社で源泉が抜ける3つの理由
1. 納付書が手元にない
源泉所得税は、申告書ではなく「所得税徴収高計算書」という納付書で納めます。会社を設立して給与支払の開始届を出していれば税務署から送られてきますが、届を出していない会社には何も届きません。届かないので、納める仕組みがあることに気づかないまま何年も経ちます。
2. 額面でそのまま払っている
役員報酬50万円と決めたら、50万円をそのまま振り込んでいる。従業員にも、求人で出した金額をそのまま払っている。天引きという発想がないので、源泉の分が会社の中に残っていません。あとから納めるときに「預かっていたお金」が存在せず、会社が立て替えることになる原因がこれです。
3. 外注と給与の区別がついていない
職人や作業員を「外注」として扱い、請求書をもらって払っているつもりが、実態は給与だった、というケースです。この場合、源泉を納めていないだけでなく、消費税の計算でも外注費として仕入税額控除を取っていたことが問題になります。二重に直すことになるので、金額が大きくなりやすい論点です。
遡って直すときの順番
遡って直す作業は、次の順番で進めます。
・誰に、いつ、いくら払ったかを月ごとに固める。通帳と給与の記録から
・それぞれが給与か外注かを分ける。外注の中に源泉対象の報酬があれば拾う
・各人の扶養控除等申告書を今からでも書いてもらう。これがないと乙欄という高い税額表で計算することになり、本税が大きく膨らみます
・月ごとの源泉税額を計算し、納付書を税務署でもらうか電子申告で作って、年分ごとに納める
・各年の年末調整をやり直す。本来の年税額と納めた源泉の差を本人と清算します
・市役所への給与支払報告書を出す。住民税の計算が止まっている状態を解消します
社長本人の分は、年末調整の代わりに本人が確定申告をして清算することもあります。従業員については、過去の年の年末調整をやり直して会社で清算するか、本人に確定申告をしてもらうか、人数と金額で判断します。
直したあとは、納期の特例の申請を出します。給与を払う人数が10人未満なら、源泉の納付を毎月から年2回にできる制度で、これを出しておくと今後の手間が大きく減ります。申請した月の翌月からしか適用されないので、無申告の整理をする最初の段階で出しておくのがよいです。
法人税より先に源泉を見る理由
無申告の整理で私が法人税より先に源泉を見るのは、法人税の計算が源泉の整理のあとでないと固まらないからです。役員報酬と給与がいくらだったか、外注のうち給与と見るものがいくらか、が決まらないと、損金の金額が決まりません。源泉を片づける作業は、そのまま法人税の申告の土台になります。
もう一つは資金の順番です。源泉の本税は受け取った本人の税金を会社が立て替える形になるので、法人税より先に資金の手当てを考える必要があります。法人税の本税と加算税については法人の無申告|赤字でも申告が必要な理由と、2期続けて失うものに、払えない場合の分け方は払えないから申告できない|無申告の税金を分けて納める方法と、申請のタイミングに書いています。源泉の本税も、まとめて納められない場合は分けて納める相談の対象になります。
税務署の調査が入った場合も、源泉は法人税と並んで必ず見られます。調査の連絡が来てからの動き方は税務調査の連絡が来てから無申告を相談する|調査日までに申告を出せるか、出すと何が変わるかに書きました。連絡が来る前に、法人税と源泉を一緒に整理して出すのが、一番軽く済む順番です。全体の流れは無申告のまま何年も経っている|連絡が来る前に出すかどうかで、ここまで変わるにまとめています。















