「払えないから、申告もできないと思っていました」
美容室を2店舗経営している会社の社長から、そう聞きました。3期分の申告が止まっている。数字をまとめれば、まとまった税金が出てくるのは分かっている。でも手元にそのお金はない。だから申告書を出すこと自体を避けてきた、ということでした。
無申告のご相談で、「税理士に話したら税務署に伝わるのでは」という不安の次に多いのが、この「払えない」です。申告と納付を一つのものとして考えているから、払えないと申告もできないと感じてしまう。
実際には、申告と納付は別の手続きです。そして、まとめて払えない場合に分けて納めるための制度があります。今回はその仕組みと、使うためのタイミングを書きます。群馬県高崎市で会計事務所をやっている立場からの話です。
目次
申告と納付は、別の手続き
申告は、「いくら納めるべきか」を確定させる手続きです。納付は、確定した金額を実際に払う手続きです。この2つは切り離すことができます。
申告書を出したからといって、その日に全額を払わなければならないわけではありません。払えない事情があれば、納付の方法を相談できます。ただし、相談の出発点は申告です。金額が確定していない状態では、何をどう分けるかの話ができません。
つまり、払えないから申告を止めるのは、順番が逆です。払えないからこそ、まず申告して、金額を確定させる必要がある。そこから先の話は、確定した金額を前提に組み立てます。
出さないほうが、払えなくなる
申告を出さずにいると、いずれ税務署の側で税額を決める処分が出ることがあります。この場合、こちらの経費は十分に反映されず、実態より重い金額になるのが普通です。上乗せの率も、自分から出した場合より重くなります。この差は加算税と延滞税でいくら増えるかに整理しました。
そして税額が確定したあと、納付がないまま時間が過ぎると、督促状が届き、その先には差押えがあります。法人の場合、差し押さえられやすいのは預金口座と売掛金です。口座が止まれば、家賃も給与も仕入も払えなくなります。売掛金を押さえられれば、取引先に事情が伝わります。
払えないから出さない、を続けた結果、払えない金額が大きくなり、分けて払う相談ができる時期も過ぎ、事業そのものが止まる。これが一番避けたい流れです。
分けて納めるための制度
国税には、まとめて納めると事業や生活が立ち行かなくなる場合に、分けて納めることを認めてもらう制度があります。
よく使われるのは、申請によって財産の差押えや換金を待ってもらい、その間に分割で納めるという仕組みです。一度に納めると事業の継続が難しくなること、納める意思があること、ほかに滞納している税金がないことなどが条件になります。猶予の期間は原則1年以内で、その間に毎月いくらずつ納めるかの計画を出します。
このほか、災害や病気、事業の大きな損失など、特別な事情がある場合に使える別の猶予の制度もあります。どちらに当てはまるかは、事情によって変わります。
猶予が認められると、その期間の延滞税は軽くなります。分割で払っている間も延滞税が満額で積み上がり続けるわけではありません。金額によっては担保を求められることがありますが、小さな会社でも使われている制度です。
申告の直後に申請する理由
分割で納めるための申請には、期限があります。納めるべき期限から一定期間内に出さないと、申請そのものができなくなります。
期限を過ぎてから申告した場合、納めるべき期限は、原則として申告書を出した日になります。つまり、申告書を出したその日から、申請の期限のカウントが始まるということです。申告だけ済ませて、納付の相談を後回しにしていると、分割の申請ができる期間を過ぎてしまうことがあります。
なので、無申告を整理するときは、申告書と分割の申請を同時に準備します。手元の資金でいくら納められるか、毎月いくらなら払い続けられるかを先に決めておき、申告書を出すのと同じタイミングで申請を出す。これが一番確実な進め方です。
美容室の3期分を、12回に分けた
冒頭の会社は、美容室を2店舗運営する株式会社で、スタイリストとアシスタントを合わせて8名。2店舗目を出したころから経理が回らなくなり、3期分の申告が止まっていました。
3期分を集計すると、法人税、消費税、給与から天引きしていたのに納めていなかった源泉所得税を合わせて、本税で約420万円になりました。美容室は人件費の割合が高く、消費税で差し引ける支払いが少ないので、消費税の比重が大きくなっています。
会社の口座にあったのは、給与と家賃の支払いを除くと120万円ほど。全額を払えば、翌月の給与が払えません。
そこで、手元の120万円を最初に納め、残りの約300万円を12回、毎月25万円ずつ納める計画を組みました。売上の季節変動を見て、繁忙期と閑散期でも払い続けられる額かどうかを確認し、申告書と分割の申請を同じ週に出しています。
源泉所得税は、従業員の給与から預かったお金です。本来は翌月に納めるもので、会社のお金ではありません。無申告の会社では、この預かり金が運転資金に回っていることがよくあります。分割の計画を組むときは、今月以降の源泉所得税を毎月きちんと納めることも前提に入れています。過去の分を返しながら、新しい預かり金を使ってしまえば、同じことの繰り返しになるからです。
社長がいちばん安心されたのは、分割が認められたことより、「いくら、いつまで」が決まったことでした。金額の分からない不安は、決まった額の支払いより重いのだと思います。
分割を続けるための条件
分割は、認められたら終わりではありません。続けるために守ることがあります。
計画どおりに納めること。途中で払えなくなると、猶予が取り消されることがあります。無理のない金額で組むのは、そのためです。
新しい滞納を作らないこと。分割で過去の分を払っている間に、今期の申告や納付が遅れれば、計画そのものが崩れます。過去の分を返しながら、今期の税金も期限どおりに納める。資金計画はこの両方を前提に組む必要があります。
毎期の申告を止めないこと。冒頭の会社は、分割の期間中から月次で数字をまとめる体制に切り替えました。止まった原因が経理の手が回らないことだったので、そこを直さないと同じことが起きます。
住民税や保険料は、別の窓口で相談する
ここまでの話は、税務署に納める国税についてです。法人住民税や事業税は県と市町村、社長個人の住民税や国民健康保険料は市町村に納めるもので、分割の相談もそれぞれの窓口で行います。
国税の分割が決まっても、地方税の相談をしていなければ、そちらから督促が来ます。全体の支払いを一つの表にまとめて、どこにいつ、いくら払うかを並べてから各窓口に相談するのが確実です。
払えないことは、申告しない理由にはなりません。むしろ、払えない方ほど早く申告して、分けて納める段取りに入ったほうが、総額は小さく、事業も守れます。税務署から封書が届いている場合は、届いた書類の種類で取れる手が変わります。法人の申告が止まっている場合の全体像は法人の無申告にまとめてあります。















