「うちみたいな小さい会社にも税務調査って来るんですか」
相談のなかでよく出る質問です。数字で言えば、法人が1年間に実地調査を受ける確率は2%を切ります。ただ、この平均値はあまり役に立ちません。設立20年で一度も来ていない会社がある一方で、5年おきに来ている会社もあるからです。
調査先は無作為に選ばれません。申告書と決算書を見て、確認する必要があると判断された会社に行きます。つまり確率を上げているのは運ではなく、自分の会社が出している数字です。
何がその判断材料になっているのか。公認会計士・税理士の長島祐太が、実際に調査を受けた会社に共通していた特徴と、当てはまったときに何をしておけばいいかを書きます。
目次
平均すると60年に1回、という数字の読み方
国税庁の公表によると、令和6事務年度に行われた法人税等の実地調査は5万4千件でした。一方で法人税の申告件数は322万件あります。単純に割ると1.7%、平均すれば60年に1回という計算になります。
この数字だけ見ると、ほとんどの会社は一生来ないことになります。ところが実際には、10年に1回来ている会社が珍しくありません。平均が意味を持たないのは、調査先が均等に選ばれていないからです。
同じ公表資料で、実地調査1件あたりの追徴税額は634万円と、直近10年で高い水準になっています。件数が減っているのに1件あたりの金額が上がっているということは、当たりを引く精度が上がっているということです。数を撃つ調査から、選んで行く調査に変わってきています。
だから「小さい会社だから来ない」は成り立ちません。規模ではなく、申告内容で選ばれます。
来やすい会社の6つの特徴
売上や利益率が前年から大きく動いた
最も分かりやすい要因です。売上が1.5倍になった、逆に半分になった、粗利率が10ポイント下がった。こうした変動は申告書の数字を並べれば一目で分かります。
動いたこと自体が悪いわけではありません。大きな案件を受注した、原材料が値上がりした、理由があるなら何も問題ありません。問題は、その理由が申告書のどこにも書かれていないことです。説明が付いていないから、聞きに来ます。
同業と比べて利益率が低い
税務署は業種別のデータを持っています。同じ業種、同じ規模の会社と比べて粗利率が明らかに低ければ、売上が抜けているか、経費に個人的なものが混ざっているか、どちらかを疑う材料になります。
自社の粗利率が同業のどのあたりにいるのか、社長が把握していない会社はかなり多いです。ここは顧問税理士が毎期伝えているべき情報だと思っています。
消費税の還付申告を出した
消費税の還付申告は重点的に見られています。令和6事務年度には、還付申告を出した法人に対して4,802件の実地調査が行われました。
輸出が多い、設備投資をした、開業初年度で仕入が先行した。理由が正当でも、還付は国からお金が出ていく手続きなので確認が入ります。還付申告を出すときは、根拠となる契約書と請求書を最初からそろえておくつもりでいてください。
前回の調査から5年以上空いている
これは会社側に落ち度がなくても効いてくる要因です。前回の調査から年数が経っている会社、設立から一度も入っていない会社は、単純に順番が回ってきます。
設立5期目から10期目あたりで最初の調査を受ける会社が多い印象です。ある程度の期間の申告が積み上がって、比較できる材料がそろうタイミングだからだと思います。
社長への貸付金や仮払金が毎期増えている
貸借対照表に「役員貸付金」「仮払金」が載っていて、その残高が毎期増えている会社は目に付きます。会社のお金が社長個人に流れ続けているように見えるからです。
実際には、領収書がない支出を仮払金のまま置いてある、というケースが多いです。放置していると、利息を取っていない点を指摘されたり、返済の実態がなければ役員賞与だと言われたりします。金額が小さくても、この科目は毎期見られていると思ってください。
期末に大きな経費が集中している
決算月に外注費や修繕費、消耗品費がまとまって計上されている決算書は、意図が透けて見えます。利益が出そうだから期末に使った、という動きは調査官が最も慣れている論点のひとつです。
経費にすること自体は問題ではありません。ただ、期末に計上したものは、その期のうちに役務の提供が終わっているか、物が納品されているかを必ず確認されます。前払いのまま経費にしていれば否認されます。
業種で確率が変わるのは事実
国税庁は不正が見つかった割合の高い業種を毎年公表しています。令和6事務年度で上位に挙がったのは、バー・クラブが62.3%、その他の飲食が45.2%、外国料理が40.2%でした。
共通しているのは現金取引の比率が高いことです。売上の一部を記録しないことが物理的に可能な業態は、確認の対象になりやすくなります。飲食、理美容、小売、建設業の一部もここに入ります。
これは業種そのものが疑われているというより、記録の残り方の問題です。現金商売でも、レジのデータと日報と入金がそろっていれば説明できます。
逆に、来にくい会社の共通点
私が見てきた範囲で、調査の間隔が長い会社にはいくつか共通点があります。
・毎期の数字の動きに理由が付いていて、それが決算書の内訳から読み取れる
・役員貸付金や仮払金といった、宙に浮いた科目が残高に載っていない
・売上と入金の対応が通帳で追える形になっている
・利益が出ている年はきちんと納税している
最後の点は意外に思われるかもしれませんが、毎期ぎりぎり赤字、あるいは利益がほぼゼロで着地している決算書のほうが不自然に見えます。調整している疑いを持たれるからです。
なお、税理士が申告書に書面添付という書類を付ける制度があります。どういう資料を確認してどう判断したかを税理士が書いて添付するもので、これが付いている場合、税務署はまず税理士から話を聞く手続きを踏みます。その段階で疑問が解消すれば実地調査に至らないこともあります。すべての会社に必要なものではありませんが、そういう選択肢があることは知っておいてよいと思います。
売上が3年で3倍になったリフォーム会社の例
個人住宅のリフォーム工事をしている会社です。設立5年、社員4名、売上1億2,000万円。3期目から急に伸びて、3年で売上が3倍になりました。5期目に初めて調査が入っています。
この会社が目に付いた理由ははっきりしていました。売上が3倍になっているのに利益はほとんど増えていない。集客ポータルの掲載料とチラシで広告費が売上の12%まで膨らんでいたためですが、決算書の数字だけ見れば「売上が伸びたのに利益が出ていない会社」です。加えて期末の未成工事支出金が3,000万円あり、社長への貸付金が800万円載っていました。
指摘されたのは未成工事支出金でした。期末の時点で着工しているが引渡しが終わっていない工事について、支払った材料費と外注費をその期の原価に落としきっていました。集計から漏れていたのは420万円です。法人税等で約126万円、過少申告加算税が約12万円かかりました。
社長への貸付金は、そのときは指摘に至っていません。ただ調査官から「次はここを説明していただくことになります」と言われました。実際、その一言が効いて、社長は翌期から役員報酬を上げて貸付金を返済する形に切り替えています。
この会社は不正をしていません。伸びている途中で工事ごとの原価の管理が追いつかなかっただけです。ただ、外から見える数字が説明を求める形になっていました。調査に来るのは不正な会社ではなく、説明のつかない数字がある会社です。
当てはまったら何をしておくか
特徴に当てはまったからといって、決算書を作り変えるわけにはいきません。やるべきなのは、数字が動いた理由を記録に残しておくことです。
粗利率が下がったなら、どの案件でどれだけ原価が増えたのか。売上が伸びたなら、どの取引先が増えたのか。期末に大きな経費を計上したなら、その役務がいつ終わっているのか。決算のときに一言メモを残しておくだけで、3年後に聞かれたときの答えが変わります。
これは会社だけではできません。毎期の数字を見ている税理士が、変動に気づいて理由を残しているかどうかです。決算書を渡されるだけで説明がない状態が続いているなら、調査の日に説明できる材料も残っていない可能性が高いです。その状態で何が起きるかは税理士から連絡が来ない・返事が遅い|放置されている会社に起きることに書きました。
通知が来てから当日、そして結果が出るまでの流れは税務調査の流れ|通知から当日、結果が出るまでにまとめてあります。順番が分かっていれば、通知の電話を受けても慌てずに済みます。
自社の数字が説明できる状態か確認したい方へ
ミノラス会計事務所では、直近3期分の決算書をお預かりして、外から見たときにどこが説明を求められる形になっているかを整理してお伝えしています。調査が来る前でも、来た後でも構いません。
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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太















