「先月から返済が始まったんですけど、思っていた額と違うんです」
高崎市内で解体工事業を始めた方から、開業して7か月目に連絡がありました。公庫から運転資金500万円。据置期間は6か月で設定していました。
最初の6か月、口座から引き落とされていたのは月8,300円ほどです。利息だけだからです。それが7か月目に、7万2,000円になりました。
金額としては、事前に説明されていたはずのものです。返済予定表にも書いてあります。ただ、6か月間8,300円の生活に慣れた体で7万2,000円を受け止めると、感覚がついていきません。
融資は、実行された日が終わりではありません。むしろそこから始まります。そして据置期間は、返済がない期間ではなく、返済が始まる前に準備をしておく期間です。
今回は、融資実行後の据置期間中に何をしておくべきかを書きます。
目次
1. 据置期間とは何か、誤解されていること
据置期間は、元金の返済を待ってもらえる期間です。利息は毎月かかります。返済がゼロになるわけではありません。
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金では、運転資金の返済期間は10年以内、設備資金は20年以内。据置期間はどちらも5年以内と定められています。ただ、創業融資の実務で5年の据置が付くことはまずありません。私が見てきた範囲では、6か月から1年が中心です。
誤解されているのは、据置期間が「猶予」だという受け取り方です。実際には、元金の返済を後ろにずらしているだけなので、返す総額は減りません。むしろ利息の分だけ増えます。
では何のためにあるのか。開業直後は、売上が立ち上がる前に支出だけが先に出ていく時期だからです。この時期に元金返済まで乗せると、資金が持たない。その谷を越えるための期間です。
だから据置期間の使い方は一つしかありません。売上を立ち上げることと、返済が始まったときに払える体をつくることです。
2. 据置明けに返済額は何倍になるか
冒頭の解体工事業の方の数字で見てみます。
・借入額:500万円(運転資金)
・返済期間:7年(84回)
・据置期間:6か月
・金利:年2.0%(仮の数字です)
据置期間中の6か月は、利息だけを払います。500万円に年2.0%の利息がかかるので、1年で10万円。月あたり約8,300円です。
7か月目からは元金の返済が始まります。ここが重要なところで、返済期間の84回のうち6回を据置に使ったので、元金500万円は残りの78回で返すことになります。500万円を78で割ると、月あたり約64,100円。これに利息が乗って、初回は約72,400円です。
8,300円が72,400円になる。約8.7倍です。
ここで見落とされやすいのが、据置期間を取ると元金の返済回数そのものが減るという点です。据置を1年にすれば、元金は72回で返すことになり、月あたりの元金は約69,400円に増えます。据置を長くするほど、明けた後の負担は重くなります。
融資実行のときに返済予定表を受け取っているはずです。据置明けの月の金額を、今すぐ確認してください。そして、その金額を毎月払える月商になっているかを逆算します。
3. 据置期間中にやるべき3つのこと
据置明けの返済額を、今から積み立てる
いちばん効くのはこれです。据置明けに月7万2,000円払うことが分かっているなら、据置期間中から毎月7万2,000円を別口座に移してしまう。
こうすると二つのことが同時に起きます。一つは、6か月後に約43万円の予備資金ができること。もう一つは、月7万2,000円を払える体質かどうかが、据置中に分かることです。
この積立が続かないなら、据置が明けた瞬間に資金繰りが詰まります。それが半年前に分かるなら、打てる手があります。明けてから気づくと、もう間に合いません。
冒頭の方には、7か月目からこの形に切り替えてもらいました。生活費の見直しと、単価の設定を一緒に見直して、なんとか回るようになっています。ただ、開業月から始めていれば、この半年はずいぶん違ったはずです。
記帳を毎月やる
開業してすぐは、現場が忙しくて記帳が後回しになります。決算前にまとめてやればいい、と思いがちです。
ただ、記帳を溜めると、自分の商売がいくら儲かっているのかが分からないまま数か月が過ぎます。据置期間は、計画と現実を突き合わせるための時間でもあります。創業計画書に書いた月商と、実際の月商。書いた粗利率と、実際の粗利率。このズレを毎月見るために、記帳が要ります。
ズレが出ること自体は問題ではありません。計画どおりに進む創業のほうが珍しい。問題は、ズレていることに気づかないまま据置が明けることです。
口座を分ける
事業用と生活用が同じ口座になっている方が、創業直後は本当に多いです。個人事業ならなおさらです。
ここを分けないと、事業として黒字なのか赤字なのかが見えません。返済分の積立口座も含めて、最低3つに分けておくと管理が楽になります。事業の入出金、返済の積立、生活費。この3つです。
融資申込のときに通帳の中身を見られた経験があるはずです。自己資金はどう見られるか|見せ金が一発でバレる理由に書いたとおり、通帳は事業の記録そのものです。次に追加融資を申し込むときも、また見られます。
4. 資金使途からずらさない
融資は、申込のときに「何に使うか」を決めて借りています。設備資金として借りたお金は設備に、運転資金として借りたお金は運転資金に使う。これが原則です。
設備資金として500万円借りたのに、機械の購入をやめて生活費に回した。こうなると資金使途違反です。最悪の場合、一括返済を求められます。実際にそこまでいくケースは多くありませんが、少なくとも次の融資はまず通りません。
設備資金で借りた場合、公庫から領収書や請求書の提出を求められることがあります。実行後に何も言われなかったとしても、書類は残しておいてください。
計画を変更したくなること自体は、よくあります。予定していた機械より安いものが見つかった、物件が変わった。そういうときは、黙って使い道を変えるのではなく、担当者に連絡してください。事前に相談された変更と、後から発覚した変更では、扱いがまったく違います。
5. 据置期間は長く取るべきか
申込のときによく聞かれます。据置は長いほうが得なのか、という質問です。
私の答えは、業種によります。
売上が立ち上がるまでに時間がかかる商売なら、据置を長めに取る意味があります。飲食店や小売店のように、認知が広がるまで数か月かかる業態がこれにあたります。
もう一つ、売上は早く立つのに手元に現金が入ってこない業態があります。解体工事業や建設業がその代表です。工事が終わって請求を出しても、入金は月末締めの翌月末、元請けによっては翌々月末。その間に、職人の給料、重機のリース料、産業廃棄物の処分費が先に出ていきます。売上の数字だけ見ていると回っているように見えるのに、通帳が減り続ける。この業態は据置期間の意味が大きい。
一方、開業初月から入金まで立つ商売なら、据置を長く取る必要はありません。前職からの取引先をそのまま引き継げる士業やコンサルティングがこれにあたります。据置を短くして早く元金を減らしたほうが、総返済額も、据置明けの月額も軽くなります。
据置期間は申込のときに希望を出して決まります。実行後に延ばすことは、原則としてできません。この判断は創業融資の必要書類一覧|公庫高崎支店に持っていくもので書いた書類の準備と同じ時期に済ませておく必要があります。後から取り返しがつかない項目です。
6. 返済が苦しくなったときにやってはいけないこと
最後に、これだけは書いておきます。
返済が厳しくなったときに、いちばんやってはいけないのは、カードローンやビジネスローンで穴を埋めることです。金利が跳ね上がるうえ、公庫への相談がさらに難しくなります。事業の傷を、より深い傷で覆う形になります。
次にやってはいけないのが、引き落としを止めることです。連絡なしの延滞は、信用情報に残ります。一度そうなると、その後の資金調達の道がほぼ閉じます。
正しい順番は、苦しくなる前に相談することです。公庫には返済条件の変更という制度があります。返済期間を延ばして月々の負担を下げる、というものです。延滞してから駆け込むより、まだ払えているうちに相談したほうが、通る可能性は高くなります。
融資を受けた事業者を長く見ていて思うのは、うまくいく方は数字を見る回数が多いということです。月に一度、通帳と試算表を並べて見る。それだけで、半年後の景色がまるで変わります。
融資は実行されて終わりではありません。私は、融資を通した後の月次の数字の見方まで含めて伴走したいと考えています。据置期間中に一度、数字の状況を一緒に確認させてください。返済が始まる前なら、まだ選択肢があります。
私がどういう考えで創業支援に関わっているかは、代表挨拶をご覧ください。
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