無申告はどこから把握されるのか|税務署が持っている情報の入り口

「どうして分かったんでしょうね」

税務署から封書が届いた方が、まず口にする言葉です。心当たりがないわけではない。ただ、なぜこのタイミングで、なぜ自分のところに来たのかが分からない。

結論から書くと、税務署は本人からではなく、お金を払った側から情報を得ています。自分が何も出していなくても、相手が出しているものがある。ここを理解しておくと、封書が届く理由も、届く前に動く意味も見えてきます。

今回は、無申告がどういう経路で把握されるのかを整理します。見つからない方法を書くつもりはありません。むしろ逆で、時間が経つほど不利になる構造を説明します。群馬県高崎市で会計事務所をやっている立場からの話です。

払った側の帳簿に、こちらの名前が残っている

これが基本の構造です。

あなたに報酬を払った会社は、その支払いを経費として計上しています。経費にするには、誰にいくら払ったかを記録しておく必要がある。つまり、こちらが何も出していなくても、相手側には必ず記録が残ります。

実際にあったケースです。フリーランスで通訳と翻訳をされている方が、4年間申告をしていませんでした。年間の収入は1,100万円ほど。取引先は商社やメーカーが中心でした。

きっかけは、取引先の1社が税務調査を受けたことでした。その会社の外注費を確認する過程で、支払先としてこの方の名前が出てきた。そこから照会が回り、封書が届いた、という流れです。本人は何もしていないのに、取引先の都合で表に出た形になります。

この構造がある以上、法人相手に仕事をしている個人が長期間気づかれずにいるほうが、むしろ例外的です。

主な情報の入り口

経路はひとつではありません。代表的なものを挙げます。

法定調書 一定の報酬や不動産の賃料などは、支払った側が税務署に提出する書類があります

取引先への調査 相手先の調査の過程で、支払先の情報が集まります

金融機関への照会 調査の権限に基づいて、口座の動きを確認できます

プラットフォーム事業者への照会 ネット販売、フリマ、配信、配達などの取引情報

海外送金の記録 一定額を超える送金や受取は記録が残ります

第三者からの情報提供 取引先、元従業員、同業者からの連絡

最後のものは軽視されがちですが、実務では珍しくありません。トラブルがあった相手が動くケースが多いので、事業の状況が悪化したタイミングで表に出ることになります。一番困る時期に来る、ということです。

もうひとつ見落とされやすいのが、お客さんの側の申告から名前が出る経路です。医療費控除で治療院の領収書が添付される、住宅ローンや補助金の手続きで工事業者名が記載される、といったケースです。相手は自分の手続きをしているだけなので、こちらには何も伝わりません。

なお、インボイスの登録番号を取得しているのに申告がない、という状態も目に付きやすくなります。取引先に番号を伝えている以上、事業をしていること自体は表に出ています。

名義が動くと、そこで分かる

不動産を買った、相続で引き継いだ、売った。こうした場面では登記が動きます。登記の情報は税務署に回るので、持っていることも、動かしたことも把握されます。

購入の場合、その資金をどこから出したのかを尋ねる書面が届くことがあります。申告している所得と購入金額が釣り合わないと、そこで質問が来る。相続で賃貸物件を引き継いだ場合は、その後の家賃収入が申告されているかどうかが見られます。

車や高額な資産も同様です。所得と生活の水準が合っていないというのは、分かりやすい入り口になります。

現金商売なら分からないのか

正直に書くと、現金中心の商売は、把握されるまでの時間が長くなる傾向はあります。相手が個人の消費者だと、支払った側の記録が残らないからです。

ただし、これは「分からない」という意味ではありません。2つの理由があります。

ひとつは、仕入や経費の側から売上を推計できること。仕入の量、店舗の家賃、従業員の数、水道光熱費。これらが分かれば、おおよその売上規模は出せます。原価率や回転率は業種ごとにある程度決まっているので、そこから外れていれば質問の対象になります。

もうひとつは、現金商売は調査の対象として意識されているということ。業種によって指摘の出やすさに差があることは、統計として公表されています。この点は税務調査が来やすい会社の特徴に数字を入れてあります。

加えて、完全に現金だけで完結する商売は今では少数です。キャッシュレス決済を一部でも入れていれば決済事業者に記録が残りますし、仕入は振込やカードで行っているのが普通です。入口と出口のどちらかが電子化していれば、そこから全体を推し量ることはできます。

結果として、現金商売は来るのが遅い代わりに、来たときの年数と深さが増すことになります。有利ではありません。

情報は消えない、ただ順番を待っている

「3年経ったけど何も来ないから大丈夫だろう」と思われている方がいます。これは誤解です。

集まった情報は蓄積されます。何も来ないのは、情報がないからではなく、まだ順番が来ていないだけであることが多い。実際、先ほどの通訳の方も4年目に来ました。

もうひとつ厄介なのは、時間が経つほど資料が失われることです。経費の領収書は捨ててしまう、通帳の履歴は取得できる期間に限りがある、取引先の担当者が代わって支払明細が出てこない。税務署が持っている収入の情報は残るのに、こちらが主張したい経費の証拠だけが消えていきます。

そして、待っている間に年数分の税額と延滞税が積み上がっていきます。時間は味方になりません。金額の増え方については加算税と延滞税でいくら増えるかに整理しました。

把握されているのは一部でしかない

ここは、むしろこちらに有利な話です。

税務署が持っているのは、入ってきたお金の情報が中心です。あなたがいくら経費を使ったか、どんな設備を買ったか、どれだけ外注に払ったかは、向こうの手元にありません。

申告がないまま税務署の側で税額を決める処分になると、経費が十分に反映されないまま計算されることがあります。実態より重い金額が出るのは、こちらが何も出していないからです。

逆に言えば、自分から申告書を作って出せば、経費も控除も反映できます。同じ収入でも、出すか出さないかで税額そのものが変わる。加算税の率だけの問題ではありません。

分かるかどうかより、いつ分かるか

ここまで書いてきたとおり、把握の経路はいくつもあります。どれか一つを避けても、別の経路が残ります。

なので、考えるべきは「分かるかどうか」ではなく「分かるのが、自分が動く前か後か」です。この順番だけで、上乗せされる金額も、経費を反映できるかどうかも変わります。

冒頭の通訳の方は、封書が届いてから4年分をまとめて提出しました。取引先から出ていたのは1社分の情報だけでしたが、こちらからは4年分すべてを出しています。結果として、把握されていた金額より申告額は大きくなりました。それでも、この順番のほうが総額は小さくなります。

進め方は無申告のまま何年も経っている場合の手順に書いてあります。何年分あるかを数えるところからで構いません。

まだ何も届いていない方こそ、今のうちに

連絡が来る前に動けるかどうかで、金額が変わります。何年分あるかと、おおよその売上が分かれば概算をお出しします。費用は料金表を、事務所の考え方はごあいさつをご覧ください。

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公認会計士・税理士・行政書士 長島祐太